5/5
「すんません、ユイさん…。
何かアタシに用事っスか?」
しゅんとしたアリーシャを見て、この子は本当に可愛い子だなと思う。
この子は今までずっと、私を慕い、ここまできた。
それはもう飼い主から離れまいとする子犬のように。
…もう、この笑顔が見れなくなるかもしれないと言う考えが過り、抱き締めてやりたい衝動にかられる。
けど、
「ちょうど良いわ、アリーシャ。
コイツらをルーシェの所まで届けて欲しいのよ。」
そんな時間さえも、今は惜しい。
「え、ルーシェんとこに!?」
「ええ。
処分をどうするか悩んでいたらルーシェが欲しがってね、ちょうど良いからあげることにしたのよ。」
驚きを隠せない様子のアリーシャ。
大方、生け捕りにしたのに何故ルーシェに渡すのか、って所だろう。
ルーシェは、私の悪友だ。
グランドラインの近くの小さな島に引きこもり、何やら様々な研究をしている変わり者…。
「…いいんスか?」
わざわざ生け捕りにしたのに、と言いたいのだろう。
アリーシャは気づいているんだ、ロー達が私にとって、何らかの知り合いであり、大切な人であることを。
そんな彼らをルーシェに渡すだなんて、一体何を考えているんだと言いたげな視線を私に向けるアリーシャ。
…時期わかる。
けれど、今言うべき事ではない。
「何が?」
「…いや、アンタがいいならそれでいい。」
笑顔でアリーシャを黙らせ、私はハートの一味を船へと案内した。
その船は黄色を中心とした色合いの、潜水艦にもなる船で…。
最先端の技術を使い仕上げられたものだ。
「え、ユイさんこの船…!?」
「アリーシャ。」
異論を唱えようとするアリーシャを、強く抱きしめる。
…もちろん、ロー達が船に乗ったのを見計らって、だ。
「ユイ、さん…?」
「アリーシャ、貴女は、貴女の行きたい道を選びなさい。
…私なんかに構わず、貴女の夢を追いかけなさい。」
強く、強く抱きしめる。
愛しい、大切な、私のアリーシャ…。
「なにを、言って…」
戸惑うアリーシャに、私は刀をアリーシャに差し出した。
「これ、黒妖蝶…っ!」
「持っていきなさい。
…私がいなくても、貴女はもう十分に強い。」
何かを察したように、アリーシャは悲痛な表情を浮かべる。
…この子は、本当に勘が鋭い子。
「ユイさん、アンタ…っ!?」
「元気でね、アリーシャ。
…愛しているわ。」
ガウンッ!
銃声が一つ、鳴り響く。
アリーシャの腹に撃ち込んだのは、麻酔弾。
…いい夢を、アリーシャ。
「…話はすんだか、ユイ?」
倒れ込むアリーシャを支えた時、扉の影からペンギンが現れた。
…この子も本当に賢い子。
「ええ。
…悪いけど、頼んだわよ。」
「…いや。
俺も、殴ったりして悪かった。」
「…仕方ないもの、気にしてないわ。」
にこりと笑みを浮かべ、アリーシャをペンギンに預ける。
私は船を降りるべく二人に背を向けた。
「…ユイっ!」
するとペンギンが、弱々しい声で私を呼び止める。
「…必ず、必ずだぞ!」
"必ず"…。
私はその声に、返事をするわけでもなく、ただ右手を高々と掲げた。
…さあ、行かなければいけない。
私の物語に、幕を閉じるために。
すれ違った道は戻らない。(叶うなら、一緒に海へと行きたかった。)
prev / next