黒猫さんの物語。 | ナノ


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「すんません、ユイさん…。
 何かアタシに用事っスか?」


しゅんとしたアリーシャを見て、この子は本当に可愛い子だなと思う。

この子は今までずっと、私を慕い、ここまできた。

それはもう飼い主から離れまいとする子犬のように。

…もう、この笑顔が見れなくなるかもしれないと言う考えが過り、抱き締めてやりたい衝動にかられる。

けど、



「ちょうど良いわ、アリーシャ。
 コイツらをルーシェの所まで届けて欲しいのよ。」



そんな時間さえも、今は惜しい。



「え、ルーシェんとこに!?」

「ええ。
 処分をどうするか悩んでいたらルーシェが欲しがってね、ちょうど良いからあげることにしたのよ。」



驚きを隠せない様子のアリーシャ。

大方、生け捕りにしたのに何故ルーシェに渡すのか、って所だろう。

ルーシェは、私の悪友だ。

グランドラインの近くの小さな島に引きこもり、何やら様々な研究をしている変わり者…。



「…いいんスか?」



わざわざ生け捕りにしたのに、と言いたいのだろう。

アリーシャは気づいているんだ、ロー達が私にとって、何らかの知り合いであり、大切な人であることを。

そんな彼らをルーシェに渡すだなんて、一体何を考えているんだと言いたげな視線を私に向けるアリーシャ。

…時期わかる。

けれど、今言うべき事ではない。



「何が?」

「…いや、アンタがいいならそれでいい。」



笑顔でアリーシャを黙らせ、私はハートの一味を船へと案内した。

その船は黄色を中心とした色合いの、潜水艦にもなる船で…。

最先端の技術を使い仕上げられたものだ。



「え、ユイさんこの船…!?」

「アリーシャ。」



異論を唱えようとするアリーシャを、強く抱きしめる。

…もちろん、ロー達が船に乗ったのを見計らって、だ。



「ユイ、さん…?」

「アリーシャ、貴女は、貴女の行きたい道を選びなさい。
 …私なんかに構わず、貴女の夢を追いかけなさい。」



強く、強く抱きしめる。

愛しい、大切な、私のアリーシャ…。



「なにを、言って…」



戸惑うアリーシャに、私は刀をアリーシャに差し出した。


「これ、黒妖蝶…っ!」

「持っていきなさい。
 …私がいなくても、貴女はもう十分に強い。」



何かを察したように、アリーシャは悲痛な表情を浮かべる。

…この子は、本当に勘が鋭い子。



「ユイさん、アンタ…っ!?」

「元気でね、アリーシャ。
 …愛しているわ。」



ガウンッ!


銃声が一つ、鳴り響く。

アリーシャの腹に撃ち込んだのは、麻酔弾。

…いい夢を、アリーシャ。



「…話はすんだか、ユイ?」



倒れ込むアリーシャを支えた時、扉の影からペンギンが現れた。

…この子も本当に賢い子。



「ええ。
 …悪いけど、頼んだわよ。」

「…いや。
 俺も、殴ったりして悪かった。」

「…仕方ないもの、気にしてないわ。」



にこりと笑みを浮かべ、アリーシャをペンギンに預ける。

私は船を降りるべく二人に背を向けた。



「…ユイっ!」



するとペンギンが、弱々しい声で私を呼び止める。



「…必ず、必ずだぞ!」



"必ず"…。

私はその声に、返事をするわけでもなく、ただ右手を高々と掲げた。

…さあ、行かなければいけない。

私の物語に、幕を閉じるために。





すれ違った道は戻らない。





(叶うなら、一緒に海へと行きたかった。)

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