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「ンだよケチだなぁっ!ちょっとくらい教えろよ!」
あれから牢屋に押し込められた俺たちハートの一味は、今後どうなるのかと正直ピリピリしていたところだった。
だがアリーシャとか言うじゃじゃ馬娘の襲来によって、その空気はいとも簡単に崩れ去った。
「…だから、何でテメェに俺とアイツの関係を話さなきゃならねぇんだよ。」
「だから言ってるだろ!?気になるからだって!」
…ああ、ダメだ、コイツ馬鹿だ。
先ほどからこのやり取りを幾度と繰り返している俺とじゃじゃ馬娘。
何でこんな奴に俺の過去だの、ユイとの関係だの何だの聞かれなくちゃならねぇんだ…、いい加減俺も疲れてきたんだが…。
一向に引こうとしないじゃじゃ馬娘に、俺はため息をひとつ溢した。
「アタシは海軍なんだよ?しかも中佐なんだよ!?アンタたち命が惜しくないわけ!?」
「テメェに過去の事話したら、釈放でもしてくれるってのか?」
自棄になってやがる、何たって俺がこんなじゃじゃ馬娘の相手をしなくちゃならねぇんだ…。
ペンギンは何か考えてる最中だし、シャチに至ってはまだ延びてやがる。
イルカは…論外だな、コイツに助けを求めたらもっとややこしくなるに決まってる。
仕方がなく、俺一人で相手することにした。
仕方がなく、だ。
「その辺はユイさんの判断だからアタシがどうこうできる事じゃない!」
えへんと胸を張って言うじゃじゃ馬娘に、呆れを通り越して感動する。
どうしたらこんな馬鹿になれるんだ、むしろ大馬鹿だ。
元から馬鹿なんだろうが、頭に血が上るともっとバカになるタイプなんだろう、言ってることが滅茶苦茶だ。
「じゃあ言わねぇな。」
「あ゛ーっっ!もうっ!
切り刻むぞテメェっっ!?」
地団駄を踏むじゃじゃ馬娘を軽くあしらい、俺は大きくため息を吐いた。
そもそも、こんな奴が中佐でいいのか海軍。
いくら実力があれど、兵を率いる程の人望や統率力があるとは思えないがな。
…いや、コイツは確かユイの部下だったはずだ。
あのユイなら、このじゃじゃ馬娘を上手く使えるだろう。なら中佐の地位にいても可笑しくはないか…。
そう言えば、ユイは何処に行ったんだ?あれから一度も姿を見せていないが…。
そう、思っていた矢先だった。
カツンッ─
「随分楽しそうね、アリーシャ…?」
ブーツを鳴らし、俺たちのいる方に近づいてくるユイ。
羽織っているのは背に正義と書かれた上着。
…俺の、知らないユイ。
「ユイさん…!」
「全く…、何処を探しても居ないから、心配したでしょう?」
ドクンッ─
ユイが、じゃじゃ馬娘の頭を撫でる。
愛しそうに、慈しむように、あの儚げで、それでいて美しい笑顔を向けて…。
…何でだ、何でだよ、ユイっ!?
思わずギリリと奥歯を噛み締める。
それは、憎しみにも似た嫉妬。
滅多に人に笑顔を向けないユイが、俺の知らない奴に極上の笑みを向けている。
…それが、酷く許せなかったんだ。
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