「唯…、何いってやがる…」 「え、いや、あの…、」 信じられないと言いたげな面持ちで、男は唯に近づく。 何度も何度も唯の名前を呼ぶ男は、どこか焦っているようにも見えた。 「唯…っっ!」 「…っ、何なんだよ今日は…! 平助といい、アンタといい!私に何を求めてるんだよっ!?」 耐えきれなくなった唯は、思わず叫んだ。 その声を聞き、千鶴や平助、そして一と呼ばれていた男も二人の元に駆けつけた。 「唯ちゃんっっ!」 千鶴は直ぐ様唯を庇うように男の前に立ちはだかり、男に優しく、そして自分にも言い聞かせるように言った。 「…土方さん、原田さんや永倉さんたちにもお伝えください。 …唯ちゃんは、唯ちゃんは女の子として、現代(イマ)を生きているんだって。」 「そりゃ、どういうことだ…?」 千鶴は一度瞳を伏せ、悲しげな笑顔で土方を見た。 瞳に溢れる涙を堪え、零れそうになる嗚咽を噛み殺し、千鶴は言った…。 「唯ちゃんは覚えていません、昔の私たちを…。 だから唯ちゃんはもう、男の子と女の子の狭間で、生きていかなくて良いんです。」 「…っ!」 土方は、目を見開いた。 困惑した表情を浮かべる唯を、もう一度改めて見てみた。 そこには、どこかサバサバとした、それでいて女らしい姿をした…。 「…成る程、そういう事か。」 ──唯が記憶を持っていたなら、こんな格好するわけねぇな。 土方は、悔しそうに笑みを溢した。 出逢う事は、悲しきかな。 (…唯はもう、)(…言うなよ、土方さん。)(けど、これでいいんだと私は思います。)(…ねえ千鶴、私の話っぽいのに私蚊帳の外なんだけど) [prev|next] |