プロローグ
(2/2)
夢中でシャッターを切った、ひと時も逃さないように。
君は「そんなに焦らなくてもどこにも行かないよ」って、
可笑しそうに笑うけど。
どの瞬間も、1分1秒逃したくなくて。
「おいで。」
しびれを切らしたのか君は私の手を取り、そっと抱き寄せる。
じっと見つめられ、私はカメラからしぶしぶ手を離すと、
首からかけたストラップからカメラの重みが伝わってくる。
君は満足そうに私の顔を覗き込んで、抱きしめる腕に力を込めた。
心地よく吹く風が、君のきれいな髪を揺らして、太陽がキラキラとその瞳に反射する。
「あなたの目、宝石みたいね。」
大げさなんかじゃなく、本気でそう思ったのだ。
君はそのきれいな瞳をすこし瞬かせた後に、また可笑しそうに笑うのだ。
「小雪の目には負けるさ。」
そういって、優しく、割れ物に触れるかのように柔らかく頬に触れる。
君とまた、こうして笑いあえる日が来るなんて、
あの日の私は想像もしていなかっただろう。
そっと目をつむり、思い返すのは青春の日々。
それはいい思い出ばかりではなく、時に苦しく、時に悲しく、
いっそ死んでしまいたいだなんて思うこともあった。
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