train boy | ナノ


「また本読んでんのか?毎日毎日飽きない奴だ」

上から掛けられた声に、顔を上げる。すると僕と同じ制服、同じネクタイの色が目に入る。それだけで彼は同じ高校の同級生だと分かる。けれど僕は彼をこの通学途中の電車の中以外では一度も見たことがない。それはこの電車の中以外では声を掛けられたことがないからだ。
いつしか僕の中で彼は"電車の中でしか会わない同級生"という奇妙な存在になっていた。恐らく彼も僕をそう思っているに違いない。

「君こそ毎日僕に声を掛けて飽きないのか?」

少し呆れたように言ってやる。すると彼はきょとんとした顔をした。
なにその顔面白い。

「別に俺は飽きないけど」

平然と言ってのけた彼の言葉に今度はこちらがきょとんとした顔になる。
ちょっと君それどういう意味。

「俺はさ、本なんて読まないし柄じゃない。でもお前は俺と違って本読むだろ?」

「まぁ、そうだな」

「だろ。でさ、お前見た時あいつまた本読んでるよって思うわけ」

「はぁ」

「今日は何読んでんのかな、とかさ、あー…なんてーの?気になるっていうか」

「……ごめん君が何を言いたいのか僕には分からない」

考え込んでしまった彼に正直にそう言うと、だよなー俺もよく分かんなくなってきた、と笑い声とともに返ってきた。それから、でも、と彼は言葉を続ける。

「そういう毎日の発見が面白いんだ。正反対だからこそ知らない世界を垣間見れる様でさ。だから俺はお前に声を掛けることは飽きないんだ」

そう言って彼はにっと口角を上げて笑う。彼の笑顔は整った顔立ちなのもあり、一層映える。思わずどきっとしてしまうほどだ。気のせいだとは思うのだけれど。

「……君って恥ずかしい奴だな」

「え?」

僕の呟きが聞き取れなかったのか、聞き返してきた彼に何でもないよ、と笑ってみせる。
彼もつられて笑ってくれたけれど、二度もその顔を直視することはできず、視線を窓の外の風景に向ける。素早く走り去っていく冬の景色を眺めながら、明日はこの"電車の中でしか会わない同級生"とどんな話をしようか、なんて考えてみる。

だって彼の笑顔を直視できない理由なんて考えたってきっとどうしようもないことだから。


手帖様に提出
電車の中/train boy
120330

「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -