お風呂上がりにミノリの淹れた紅茶を飲んで一息つく。やはり美味しいとガオモンは思った。フランは区切りのいい所まで作業をすると長い指を動かし、アグモンはガオモンの隣でうとうとしている。トーマとマサルはミノリが考えた<いいこと>の手伝いに多人数用の仮眠室へ借り出されていた。

「よう待たせたな。っておいアグモン寝るな、おぶってかねーぞ。おまえ重てーんだから」

ミノリが迎えに来て半分夢の中のアグモンを起こす。フランが先に行っててくれとキーをたたき続けるので、真っ直ぐ歩けないアグモンをガオモンとミノリで支えて行く。

「ミノリ、いいこと‥とは一体?」

「仮眠室行ったらわかるよ」

「ねむい〜」

目的地について扉を潜ると、そこには。

「‥‥‥‥こ‥れは‥」

「ん?だから<いいこと>」

ガオモンの大きな口が塞がらなくなるのも無理はない。普段は均等に間をあけて整列してある十余台のベッドがくっつけて並べてあり一つの巨大なベッドとして存在していたのだから。

「頭と足元の柵は結構簡単に外せるんだよ。ベッドの数に対して人が多い場合の策としてさ、こうやってくっつけて一つの大きなものに出来るようになってんだ。」

「それは‥知りませんでした‥、しかし全員で6人です。ベッドは足りるのでは‥?」

「えー、だって大きいベッドでみんなで寝んの楽しいじゃん」

思わず感心してしまったが、ミノリの言い分にえーっとあいた口が再び塞がらなくなるガオモンだった。

さっきまで寝ていたも同然のアグモンは初めて見る巨大ベッドに興奮して転げ回っている。マサルとトーマはそこそこ重労働だったのかベッドの端に仲良く横たわってピクリとも動かない。生気はゼロに等しいようだ。

「すっげえデカイだろ?真横一直線に六人寝れるし、多少ゴダゴダしても当たらねえくらい広くしたからな」

「うわ〜すげ〜楽し〜」

今のところその広さを満喫しているのはアグモンだけだったが、そのテンションに触発されたのかマサルも生き返り枕をボフボフしだした。

「トーマ、起きろ。」

「無理だ‥君はよく起き上がれたな‥」

「だってこれは枕投げするしかねえだろっ」

と、いうわけでフランが来るまで強制参加型枕投げ大会が勃発。いつの間にか本気でマサル、アグモンに対抗していたトーマとガオモン。知らず知らずミノリの流れに乗せられているのが釈然としないが、結果楽しいのでいいかと結論。フランも巻き込んで遅くまで枕は空中を飛び交っていた。


********


あれから一時間。フラン、トーマ、ガオモン、アグモン、マサル、ミノリの順に一例になり布団に包まる。
アグモンはイビキ時々「たまご‥やき‥」の寝言を言っているが、気疲れしているトーマとガオモンとマサルは気にならないのか寝息が聞こえてきた。

「‥ミノリ、起きているかい?」

そんな四人が寝たのを見計らっていたフランがのそりと上半身を起こし、ひっそりとミノリに呼び掛けた。

「‥なんだよ」

「納得いかない。どうして端と端なんだ」

「まだ言うか、しつけーな。この配置が一番安全だからに決まってるからだろ。おとなしく寝ろ」

寝たままの格好で対応したミノリがそれきりうんとも言わなくなったのだが、フランはふて腐れて睨んでいるのか暫くそのままだった。明かりは落としぼんやりと仄暗い中に輪郭が浮かんでいるだけなので、彼の表情までは分からないけれど。

やっと崩し、横たわった時。ミノリはため息をひとつ吐いてからゆっくりベッドを降りた。

ギシ‥
ベッドの外に立ったままフランに上半身だけ覆いかぶさる。鼻先がくっつくまで顔を近付けて、一言。

「‥ま、惚れたもん負けだな」

軽く、唇が触れるだけの柔らかいキスをして。きん色の前髪を少しすくって、

「はい、おやすみ」

そのまま定位置に帰り何事も無かったかのように眠りだした。最初こそ驚喜で固まっていたフランだったが、色々満足したのかこちらも寝息をたて始める。

じつは、ミノリの起き上がった気配でうっすら意識が覚醒しつつあったマサルとトーマとガオモン。衝撃の場面を見てしまい、いたたまれない空気なっていたことを大人の二人とアグモンは知らない。


朝。疲れが拭い去れていないのは夕べのせいだと愚痴りたいが我慢する三人。しかし朝食と紅茶が美味しいのでやはり許しそうになる。

「あ、やばい」

またもや唐突に発せられたミノリの一言に、何だよと突っ込む気力はもはや残っていない。

「オレはアグモンとガオモンでフロ掃除するからマサルとトーマはベッドを元に戻してくれ」

脱力。

無いに等しい体力を奮い立たせ、皆(特に女性陣)が出勤してくる前に終わらすべく、片付けが行われた。


「おはよう。作業はすすんでいるか」

「隊長、おはようございます。」

フランが薩摩に挨拶を返し経過を伝えていると、黒崎や白川、ヨシノの顔が揃いミノリと遊ぶ目的だろうイクトが今日は朝早くから来ていた。

「今日中には解析終了し座標軸特定及びゲート開門が行える予定です」

「うむ、そうか」

「今日で珍客ともお別れだな」

「え?!ミノリたち、もう帰っちゃうのか?」

「おーっす、おはよう」

イクトが落胆の声をあげると同時に、片付けを終えたミノリたちが帰ってきた。ルームの扉が開くや否や、件の人物にイクトは一目散に駆け寄る。

「ミノリ、もう帰るのか?」

「え?そんなに作業進んでんのか‥。ああ、そうだな。長居するほど良い影響は与えないからな」

「‥じゃあ、それまで今日はずっと遊ぶ」

「ああ、いいぜ」

「マサルも!‥なんか疲れてるか?」

「んあ?ああ、大丈夫‥」

トーマは最後まで手伝えとフランの咳ばらいが聞こえた。光は見えている、今日は嫉妬している暇はない。

「わたしもお手伝い致します、マスター」

「リラックスは私たちに任せて。美味しいお茶淹れてあげるわよ」

「じゃーん、そして超高級洋菓子店ジェムのフルーツケーキでーすっ」

オオーッと歓声があがり、アグモンとファルコモンとイクトが早く食べた〜いとはしゃぐ。

「はいはい、お茶の時間まで我慢しましょ。あ、ミノリ。遊ぶなら訓練館でね。何かあったら困るんだから外出は無しよ」

「おっけー。分かってるって」

ヨシノにニッコリとした後イクトらを引き連れ訓練館へと足を向けた。そこは学校での体育館の位置付けとなる、だだっ広い多目的用地のことで。倉庫にはあらゆるスポーツや筋トレ、総合格闘技も行えるほど無駄に一通り道具が揃っており地下にはプールも完備である。

「さあ、何しようか?」

目的地につくと、ミノリは手を腰にあてながらイクトに聞いた。

「んーと‥、そうだ!オレ、あれが見たい」

「‥あれ?何のことだ?マサル」

「あー‥多分、柔術のことだと思う。それの使い手が主人公の格闘漫画見て以来、格好良いってハマってさ‥見てみたい、してみたいって言ってたし」

「それもしかしてオレらが持ってるあの漫画のことか‥?」

「そうそう、それ。とりあえず見様見真似の<型>はやったんだけどな‥」

「実戦をご希望ですか‥」

「戦士だからな‥」

「ミノリ、マサル、してくれるか!?」

キラキラと効果音が聞こえてきそうな目の輝きを向けるイクトに、う〜んと考えこむ二人だがミノリが大きな手をイクトの頭に置いて承諾する。

「よし、いいぜ。漢なら強さに憧れて当然だよな。ただ、柔術限定は無理だ。師についた訳じゃないからな。でも‥」

そしてニヤマリといい顔で、話しかけているのはイクトにだが視線はマサルに向けながら。扇動の如く言葉を紡ぐ。

「総合格闘技の実戦なら出来るぜ」

「チリッ」

そう言われてマサルの中で何かがざわついた。うなじ辺りが熱くなる。好戦に心が躍る時はいつもそうだ。戦火に焦がれる魂の音が聞こえてくるのだ。

「チリチリチリチリッ」

武者震いが全身を駆け巡る。
嬉しくて口元が歪む。

「‥面白そうじゃねえか‥」

「決まりだな。マットひくぞ。アグモン、ファルコモン、手伝ってくれ」

「おーう」

「任せてよ」

「オレも手伝う!」

「‥オレも、」

さっきまでの倦怠感も吹き飛び、ただ拳を交わえる喜びにマサルも張り切ってマット出しに加わった。

その一方では、

「資料揃えました」

「こっちのデータ解析終了です」

「このプログラムを立ち上げて下さい」

「まかせて」

メインルームでは黒崎、白川、ヨシノ、トーマがフランの手足となり忙しなく動いていた。

「マスター、資料をお持ちしました」

「ありがとう、ガオモン。これをフランに」

「イエス、マスター。‥ところで体調はいかがですか?大分お疲れの様でしたが‥」

「大丈夫。あの仕事ぶりを見ていたらね」

視線は華麗に指がはねているフランに向けられた。誰よりも仕事量は多いはずなのにけしてミスは無く、いつも効率の良い消化選択をしているテクニックは見ていて勉強になる。
感心半分焦燥半分。
訳も無く早くそのステップまで駆け上がらなければと急き立ってしまう。彼に負けたくない。いや負けない。自分にも出来るはずだ。あのステージに立てるはずだ、と。


すべてが順調に思えたが、問題が発生した事をメインルームに響き渡るけたたましいエラー音の指摘で気付かされた。
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