よん



「風呂入れるぜ〜!誰から入る?」

腕まくりしたミノリがルームに戻ってくるなり叫ぶ。早く休みたいと思っているマサルとトーマとガオモンが、掃除中に濡れてしまいオレから〜とせがむアグモンと共に湯を貰おうと口を開きかけた時、

「広いしみんなで入ればいいかー」

の、一声で台なしになってしまった。

「‥ごめん、二人共‥オレってバカで‥」

「いやマサルのせいじゃ無い‥」

「ミノリは‥天真爛漫すぎます‥」

さっきの出来事であんまりミノリとフランの側に居たくなかったのだが仕方ない。全員でシャワールームに向かった。

「広っ!男子側より広っ!」

綺麗に手入れの行き届いたシャワールームは禁断の女子エリアだ。男子サイドより広めに作られたそこはお洒落な装飾も施され浴槽もあるし、虚しくなるほど何だか差が激しい‥。

「うわーい、いつもより広ーい」

「走んなアグモン、こけっぞー」

うわーの悲鳴を最後にやっぱりこけたアグモンは鼻を強打していて、笑いながらミノリが歩み寄る。

「だから言ったじゃねえか」

「イテテテ‥」

「ほうれ」

がっしとアグモンを掴み湯の中へ放り込む。わっわーの悲鳴と共にしぶきがあがり何すんだよーの台詞がエコーしていた。

「ははははっ」

豪快に笑ながら体に湯を流した後でミノリも湯舟に浸かる。ふーっと一息ついた頃には皆も浴槽の中だった。

「おーよーげーるー」

「アグモン、マナーがなってないぞ」

「ガオモンも〜泳ぎなよ〜きもち〜ぞ〜」

「誰が泳ぐか!」

「んーっ、家と違ってだだっ広いし、足がおもいっきり伸ばせていーなーっ!」

「え?なに言ってるんだマサル、これくらいの広さは普通だろう?」

「沈めるぞ」

「ふうー‥、やっぱり目にくるな」

「これ以上視力落とすなよ」

「気をつけてはいるんだがな‥」

「お前、オレが帰って来る度に悪くなってんじゃん。注意する奴とかいないみたいだし、本気でどーにかしろよ」

「‥君だって帰って来る度にボロボロになってるじゃないか」

「あれは漢の勲章ー」

「し、しかしだな‥」

「乙女な事言うなよ。つうか怪我しねえ方が難しいってーの。それにお前より鍛えてるし大丈夫だって」

ぐうの音も出なくなったフランは口元まで湯に潜りむくれる。確かにマサルとトーマと違いミノリとフランには体の作りに差異が生じていた。二人とも筋肉はついているがミノリの方が明らかに洗練されている。日々、未知の世界相手に殴り倒している結果なのか。

「体を洗ってくる」

ツンとした口調でフランが立ち上がる。

「お背中流しましょーか?」

ミノリがわざと高いトーンで言うと、

「い‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥らない‥」

物凄い躊躇しながらフランは断るが、即刻後悔しているのは明らかにガックリ落ちた肩からみてとれる。

「‥じゃあ、オレが流そっかな」

何の気まぐれかマサルがフランの後に続いて浴槽から出ると、スポンジをわしゃわしゃと泡立て始めた。

「「マ‥マサル?!」」

驚いたのはフランとトーマ。フランは予想外の、トーマはさっきまで敬遠していたのに急な心変わりに対する驚きだった。もちろん声には出していないが、後者の理由でガオモンの目も大きく見開かれていた。

「へえ‥よかったなあフラン。‥手え出したら沈めるけどな」

「す、すすすするわけ‥っ」

過剰にビビっているのはやましい気持ちが隠れているのか何なのか‥

「ガオモーン!オレもアニキみたいにしてやるぞ、あっちに行こーぜ」

「わ、わたしは遠慮す‥、」

「いいからいいから〜」

ガオモンとアグモンがフランとマサルの所から少し離れた場所でギャーギャー騒ぎながら泡塗れになり遊んでいる。
ふたりきりになった浴槽でただ一人、マサルの考えが解るらしいミノリが相変わらず読めない笑顔でトーマに話し掛けた。

「‥トーマ。オレに聞きたい事、ないの?」

「聞きたい、こと?」

「オレが、向こうに行く時のこととか」

「それは‥、マサルが決めたんだから仕方ないし‥、その‥。いや、あります。本当はその事実を知ってから聞きたかった。ミノリいや‥マサル。どうして躊躇いもなく知らない所へ行けるんだ?‥怖くないのか?その強さはどこから湧いてくる」

揺れながらもこちらを見るトーマにすうっと目を細めて、食後の談話の時よりも慈しむように愛でるようにミノリは微笑んだ。

「それは、お前が‥トーマが居るから」

「‥え?」

「お前がオレの居場所になっているから。笑顔で出迎えてくれる限り、どこまでも走って行ける。だから舞い上がれる。」

「‥っ、」

「千尋の影をくぐり抜けて、どこにいても必ず帰ってくるから。」

「は‥はい‥」

自然に出た敬語で測れるようにミノリの殺し文句でのぼせる寸前のトーマ。長い髪を束ねて色っぽいうなじが見えるのも要因のひとつとなのはトーマ以外知らない。

熱くなった心と体を冷まそうと、トーマはガオモンたちの方にフラフラ近寄った。

「マ、マスター?!」

「‥駄目だ‥彼には‥勝てない‥」

ザバーと水を被る主越しに、ガオモンは心配そうにマサルを見つめた。

「なあ、フラン。‥聞きたいことがあんだけどよ‥聞いてる?」

「ん?あ、ああっ!もちろん‥」

完全に上の空のフランはマサルが背中を流してくれているという至福を噛み締め中だった。

「聞きたいこと‥?なんだい?」

「オレがさ、どこに行ってても‥ずっと待ってるんだろ?‥愛想とかさ、その‥尽きないわけ?」

「え?聞きたいことって、それ?」

「な‥なんだよ、別に変なこと聞いてねえだろ‥で?どーなんだよ」

「クス‥愛想なんて尽きるわけないよ、有り得ないね。僕は君の帰る為の道標となり故郷となっているんだからずっと待ってるよ。それに君の居ない間のことを頼まれているしね。逆に君との縁を切るなんて‥それこそ気が狂ってしまう」

「そ‥かよ」

「僕は君がいれば、いつだって煌めくんだ」

「‥っ、」

「うわっ!?」

バッシャーと洗面器にためていた湯をおもいっきりフランにぶつけて、真っ赤になった顔を伏せて歩きながらガオモンたちの居る避難所へ逃げこんだ。

「‥駄目だ‥余計疲れた‥」

「‥さっさと洗って出るか」

「イエス、マスター」

妙な結束ができた三人だった。
そしてアグモンは泡遊びに夢中だった。

「なんでだ‥」

「ははっ、水も滴るナントヤラだな」

叩き付けるように湯を浴びせられた理由が分からない為、ちょっぴり傷付いているフランの隣にミノリが座る。

「何を考えているのか今でも理解できない」

「あれー、お前はそこが魅力なんだろ?」

「‥こうして比べると変わったな」

「お互い様だろうが」

「出会った頃はただのバカだったのに今じゃ妙なとこで頭がきれるようになって‥」

「褒めて‥ねえな、それ。」

「そういえばトーマと話してたみたいだが」

「お前らと似たようた会話だよ」

「‥具体的に」

「お前さあ、自分にまで嫉妬とか寒い。」

「別に‥っ、そんな‥ことは‥」

「語尾が小さくなってんぞ。」

「しょうがないだろう、君は皆に魅入られる。僕も溺れて抜け出せない‥」

「そんな物好きはお前だけだよ」

「‥そういう所も‥心配だ」

「へいへい。ま、そんなオレが惹かれるのは‥お前だけ。だけどな」

「え‥えぇ?!ももも‥もう一回!」

「ははっ、ぜってー言わねー」

公然イチャラブ中の二人をよそに、さっさと洗いをすませた三人は遊び足りないアグモンを引きずり浴室から出ていく。物凄い倦怠感に足取りは重い。

「やっぱり一緒にフロ入ったのは間違いだったな‥もう‥寝る‥」

「そうだな‥仮眠室に準備しに行くか‥」

「イエス‥マスター‥」

「なんでみんな疲れてんだー?」

一人ハテナマークを飛ばしながら首を傾げるアグモンをよそにのろのろ着替えていたらミノリとフランも上がってきた。

「仮眠室にシーツ敷かなきゃなあ‥」

ミノリが欠伸をしながら呟く。

「あ、そーだ。いいこと思いついた」

その<いいこと>がマサル達にとってもそうなのかとても怪しいものである。三人の顔は青くなって今度は何だよと脂汗をかいていた。
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