「とにかく。長官の手前、勢いで名乗ったとはいえその偽名で過ごしたいと思いますので。えー、改めましてミノリでっす」

「フランです」

ぺこー、と視線は皆に向けられ逸らさないまま、会釈程度に腰を曲げるミノリに、フランは目を伏せ軽く頭を下げ挨拶をする。

「なんかそう名乗られた途端、マジで伯父さんな感じに思えてきた」

「‥僕も、同一には見えなくなってる」

「つうか伯父さんと兄貴のノリがいい感じだな。しばらく厄介になんぜマサル」

「あーーやっぱ違和感‥」

わしわし頭を撫でられ客観的には自然に見えるのだが、本人的にはやはりどうあっても微妙らしい。

「とりあえず、飛ばされた空間の座標軸特定をするか‥」

「‥装置の復興は‥?」

「いや、デジタルゲートを使って帰るよ。応用がきくし、こちらの方が早く正確にいける」

「手伝います、指示を下さい」

「わかった。よろしく頼むよ」

そうしてフランとトーマの最強ドリームタッグが誕生しデータ解析作業を始めた所、再びルームの扉が開く音がした。

「マサル、みんな、おはよう」

元気いっぱいに飛び込んで来たイクトの後に、困り顔のファルコモンが待ってよ〜と続いて入って来た。

「おー、イクト!元気そうだな」

「!‥、誰だ?この二人。マサルとトーマにそっくり‥」

思わず声を掛けたミノリにびっくりしたイクトはマサルの影に半分身を隠し、見知らぬ大人たちを見上げた。脇から顔だけ出すカタチでじっ、と二人を見据える。

「はじめましてー、マサルの伯父のミノリです」

「えっ、オジサン?!」

「おいおいミノリぃ‥」

「僕はトーマの兄ですよ、フランです」

「ええっ、ニイサン!?」

「フランまで‥」

「からかうんじゃないわよあんた達!いい年して‥ほんっと二人が揃うと面倒だわ‥。」

ヨシノが事の本末をイクトに伝えると、リアクションの良い彼から今日一番の叫びが聞こえた。

「お前、未来から来たマサル?!すごくカッコイイ!」

「お、嬉しいなあ。聞いたかフラン!」

「‥ああ‥」

作業をしつつも絶賛不機嫌な顔で答える博士。どうやらマサルに関しての心の狭さは健在どころか拍車がかかったようだ。

「そういや向こうのイクトは18なんだよな、こっちのヨシノとタメかあ。」

なでなでと小さな頭を手で覆う。おおーっとキラキラした表情でイクトは見上げた。その途端、思い出した女性陣が再度ミノリに詰め寄った。

「そういえば隊長のこと聞きそびれてたんですけど!何か変化があったわけ?8年後はどんな風になってるのよ?!」

「ねぇ、私たちの誰か結婚‥なんてしちゃってるのかしら?恋人くらいは居るわよね?!変に隠しだてしないで教えなさいよ!?」

「皆は元気?どういうスィーツやファッションが流行ってるのかしら‥今は無名でも大きくなったブランドあったら教えてよ!!」

しゃべる、喋る。
一斉にマシンガンの如く次から次へと質問は尽きず、ステレオより酷い騒々しさで3人は気になる事を捲し立てて聞き続ける。
完璧に迫力負けしてしまい言葉が出なくなってしまったミノリと、哀れ近くに居たが為に巻き込まれたイクトはぴっしり固まり動けない。

「ゴホン、あー‥少し落ち着いて‥」

隊長が何とか制止しようとしてみるが、こちらも迫力負けしているため微妙に声は届かず、空しいかなそのまま消えていった。
マサルはというと関わり合いにならないようにアグモン、ララモン、ファルコモンを連れ少し遠巻きにちゃっかり避難していた。

「あ〜隊長も注意出来ないよ、兄貴〜?」

「女はなぁ、強いし怖いからな‥」

「マサルから聞くと妙な説得力があるわね〜‥」

「イクト‥大丈夫かな‥」

唖然としているトーマとガオモンの側で我に返ったフランがやっと動き出した。

「皆さん、はいタイム!」

手でTの形を作りミノリを引っ張り出す。イクトを置いてけぼりにした辺りマサルが絡むと本当に人で無し部分が垣間見える。

「ちょっと借りますよ。」

先ほどミノリがフランを連れ込んだ角にメンバーには背を向け内緒話を始めた。

「ハッキリ言うと僕らが帰れば記憶は無くなる、しかし余計な語りはタブーにかわりない。<どこまで話していいか>。線引きは難しいが、語ってもいいんじゃないかな」

「詳しくは言わない、でも朧げなら‥輪郭くらいなら構わないってことか?」

「どこまでかは君に任せる。どうせ君は僕が決めてもそれ以上に語るだろうし」

「失礼な。でも、そーかも‥」

クルリと向き直り、よしっ、まずは隊長の件な!とミノリが両手を腰にあてニッカリ笑う。

「言っときますけど深くまでは話せないからご了承下さいねっ。数年後、この機関はちょっと中身が変わりまして‥あ、平和を守るっていうその根本は変化ないですよ?それで隊長は肩書きが課長になるんです。」

ニッコニッコと軽妙な感じで喋っているがみんな気付いてしまった。

‥目が笑ってない。

余計な詮索はするなと言いたげに目で牽制をかけている。羽柴長官、いい気味とか思ってなんかすいません‥その恐さ、よーく分かります。心が一つになった瞬間だった。

「はい、他に聞きたいことは?あ、結婚した人がいるかだったっけ?」

さっきはあれだけガンガン聞けたのに、ミノリに腹を据えられてからは異様な威圧で言葉を零すのに勇気がいるようになっていた。聞いた本人である黒崎も無言で頷く。

「結婚した人ねえ、居るよ。一人」

「「「「「「っえ、ええぇえ‥っ!!!???」」」」」」

華麗に全員がハモっていた。

「ええ、だっ、だ誰‥」

「ほ、本当にいるの?!」

「は、はやく、はやく言って!!!」

女性3人がドギマギしながら続きを促す。言葉には出来ないだけで男性陣も結果が気になり変な高揚感で手に汗をかいていた。

「‥‥‥‥‥ヨシノ」

ニヤマリと怪しい笑みで今は産休中と続く。

「あああ、あたしぃ!!???」

「「ヨーーシーーノーー!!!!」」

「怖いっ!二人が怖いっっ!!!」

「誰なのよ、相手は誰なのよっ?!!」

「私たちの知ってる人!?」

あんなにビビっていたクセに怒涛の剣幕で食いつく二人は無敵の気がする。嫉妬なのか妙に地を這う低さの声色だった。

「‥‥‥ネオン」

「ひ‥っ、ヒトシ?!」

「「華村祢音ですってぇ!!!???」」

「やだっ、私、ほんとにヒトシと‥?しかも産休って‥、ひいっ!!」

「「ヨーーシーーノーーォーー!!!!」」

「怖いぃっ!二人が今までで一番怖いいっ!!!!!」

「なあ、マサル。さんきゅーって何だ?」

「ん?ああ、産休はな、結婚して、赤ちゃんが産まれっから仕事を休むことだ」

「ヨシノ、お母さん?!すごい!」

「だな。」

マサル率いる避難所へ自力で逃げて来たイクトは彼と祝福の会話をしていた。が、そんなほのぼのした穏やかな話が当然彼女たちに聞こえている訳もなく。

「なによぅ!ヨシノばっかり出会いがあってズルイじゃないっ!しかも結婚して妊娠までしてえーっ!!!」

「ダンナの友人紹介しなさいよー!!!合コン、お見合い、セッティングしなさいよー!!!」

わめきに喚く。阿鼻叫喚とはこの様だろうと一同が腫れ物に触るみたいにしていると。何だかんだで迂闊に行動出来ないまま時は過ぎ、落ち着いたのはそれから1時間ほど過ぎた頃だった。

「で、他に聞きたいことは?」

ヨシノを羊にし、遥か先の事実を知ればどうなるか代償を見せ付けられた分、名乗りをあげる者はいなかった。
というか鎮火したばかりの騒動でいやに疲れてしまったと言った方がいいのかもしれないが。

「ミノリ‥妹は、リリーナは元気ですか?」

そんな折、搾り出した声はトーマからだった。強張った表情から緊張しているのだろう。堅く握られた手は震えていて、マスター。と控えめにガオモンが呟きながら見つめていた。

「‥長官にさ、一文句言ってる時。お前を何て呼んだか聞いてた?」

「え?」

「フラン博士」

「そ‥、れが?」

「別に酔狂で言ったんじゃねえぜ?未知の難病を完治させて得たノーベル医学賞は、トーマが史上最年少だからな」

「それじゃあ‥リリーナは‥、」

それだけをやっと呟くと不意に出た涙を拭くのに専念した。きん色の髪を骨張った手が包む。

「大丈夫、信じてる未来はちゃんとものに出来るから。想うまま戦え。」

自分なのに格好良く見えるミノリを見て感動していたマサルは気付いてしまった。過去の自分にも眉間のシワを深くしている件の博士を。あいつ‥リリーナの関門を通過したら残念になってんな。とマサルが思ったのはここだけの話。

「よかったですね、マスター」

「いや、これからだ。」

パタパタ揺れる尻尾と少し赤くなった鼻のコンビが遠くない未来への決意を新たにした頃、はいっと勢いよく挙手したのはイクトだった。

「オレとファルコモン、元気か?」

「あ、俺も気になる。オレの子分は卵焼きの食い過ぎでよもや太ってたり‥はねえだろうなあ?」

「アニキィ〜それはないぜえ〜」

「わたしも聞きたいわ〜。結婚してもヨシノと一緒なのかしら‥」

「ぼくもっ。ずっとイクトと一緒か聞きたぁい!」

「‥わたしもだ。課長になった薩摩と共に新しくなったその機関にまだ居るのか?」

「うむ、皆の健康や暮らしは知りたいな」

「わたしもマスターのお役に立てれているでしょうか?」

最後にガオモンがそう言ってちらりとフランの横顔を眺めた。
ちなみに。あの白黒コンビの騒動中、一瞬でもデータ解析の手を止めなかったのは彼だけで(トーマへ嫉妬中も)集中力が桁外れに高くある種の強者である。
が、その手が初めて止まった。
軽やかに踊るようだった手は、フリーズしたまま。ガオモンはマスター?とフランに呼びかけた。何か触れてはならないものに触ったのかと不安の色に染まっている。
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