思い返せばマサルは始めから『そういう』人間だった。何も変わってない。変わったのは僕だ。彼の存在が惜しくて失いたくなかったのだから。

そのわりに、あまりにもマサルについて知らなさすぎた。あの関係が崩れるのがイヤで踏み込めなかった。
名字は?
誕生日は?
家族は?
出身地は?

‥連絡先は?

知らない。分からない。
曖昧なままでいすぎた。甘えすぎた。
あんな砂上の楼閣の毎日を、なぜ永遠に続くものだと信じていたんだろう。
もう遅い。帰ってこない。

季節は再び、春がやって来た。
























あれから、数回『春』が来た。

どこに居るのか分からないけれど、マサル、君は毎日を、どんな風に『そこ』で過ごしているんだい?
僕は君がいなくなって、輝いていた日々の色もあせたようだ。

でも忘れないよ。君の笑顔を。
いや、忘れることが出来ないと言った方が正しいかもしれない。
だから、僕は忘れない。けして忘れない。

失ってからの、その日その日の変化が『あの日』を塗り替えるように。深くシミのように着色していく。

それでも、僕は、覚えているよ‥。





(ずっと待っていたいとも思ったけど、このまま君の帰ってこない部屋で独りに耐えきれず、孤独な未来をむかえる強さもなくて)




就職も決まり、この部屋を

僕も出てしまった。





『春』





(連絡先も知らないマサルと、会えるかもしれない可能性を、潰した)
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