純醇チョコレヰト、トーマの場合



・バレンタイン話





確かに飲みすぎるとすぐに吐く事は知っていた。でもこんなにアルコールに弱かっただろうか?
ちょっと奮発して買った高い酒の入ったチョコレートだ。
あんま会えないワケだし、こんな日くらい恥は捨てるよ。オレも大人だ。わざわざリリーナから好きなチョコのブランドとかも聞いてさ、キレーなおねーさんにこれまたキレーにラッピングして貰ってさ?

「どうぞ素敵な恋人の日を」

とまで言われちまったぜ。
「恋人にですか?」って聞かれた時に頷いたからな。

オレもちょっと楽しみにしてたけど、まさか会わない間にこんなに変わってたとはな‥。

「‥おい、トーマ」

「う、ん」

「そろそろ離れろ」

「も‥すこし‥」

対面に座ったまま抱きつかれて、何時もはキチンと伸びた背筋もまぁるくなって、胸元に擦り寄っている。危ないから眼鏡はオレが外してやったんだぜ。

さっきから首辺りに見える金糸の様な髪を、しょうがなく撫でる。
ふわふわと気持ちいい。
うん、可愛い。

「まさ る、」

ふにゃりとした声が聞こえた。
酔っぱらってんのが判る。
おいおいトーマさんよお、まだ3個だぜ?こんなんでお前アルコール飲めんのかよ。

「まさる」

トーマがこんな目に見えて甘えるなんてそうない。紳士的に、クールに、格好良くって感じだから。
ほんと珍しい。
うーん、可愛いしか出てこないわ。

と、ふにゃふにゃしたトーマを可愛い可愛いって破顔して油断してたら。

「マサル」

「あれ?」

座ってたはずが、視界にはいつの間にか天井が。そんでもってトーマの顔。首筋にちりっとした熱い痛み。

「‥‥‥あれ?」

蕩ける視線。
何だよお前。今日って日に酔ったのかよ。柄じゃねえな。いや、いつも通りか?
ちゃんと帰ってきてくれて嬉しかったって、そういう事だろ?
言葉にして言われるより何だか照れ臭くて、お前もテンション上がってたんだって分かって。

近づいて、離されたトーマの口からふわりと香る、お酒とチョコがオレも纏めて溶かしたみたいだ。

だって、今日は、


Happy Valentine...!!
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