追記


深く沈んだ黒の中に一握りの灯りだけが仄かに色付いていた。手元だけを照らす読書灯を頼りに文字に落ちる。本当に珍しく、彼が「面白い」と言ったからその小説へ僕もダイブする。

‥なるほど。彼の好きそうな内容だ。友情に囲まれ冒険という浪漫を辿る。王道も王道で分かりやすい展開だが、だからこそ確かに面白い。


きしり、と揺れた。
隣の彼が寝返りをしたらしい。起こしてしまったかな、と顔を覗き込んだら。閉ざされた目蓋はまだ夢を映しているみたいでそっと息を吐いた。そしてゆっくりと視線を言葉の綴りに戻し、続きへ浸ろうと指先で探った。


「トーマ」


震えた空気が鼓膜を揺すぶる。
慌てて彼の方を見た。

その様相は最初のままだ。眠っている。
‥寝言、らしい。

「なんだい?マサル‥、」

思った以上に優しい声色が暗闇を飾った。物語をなぞっていた爪先を頬へ向ける。するりときめ細やかな皮膚の上を滑らせると、くすぐったかったのか彼は少し身体を動かした。

深く布にくるまり、すぅすぅと微かな寝息に、唯一の灯りを消すと。彼のその息に重なる様に僕も横になった。ぼんやりと浮かぶ輪郭を眺めながら、微睡みに溶け込む。彼と向かい合う形で僕も闇の帳にくるまる。

「おやすみマサル」

おう、と返事が聞こえた気がしたのでくつくつと笑ってしまった。

栞の狭間の世界は、また今度。
降ろした意識の向こう側で、優しく髪を梳かれた、気がした。



幸せいっぱいのトーマさん。
兄貴は起きてました(^O^)/
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