追記
(きっと目が覚めたらハッピーエンド)
ふと覚醒した。
目に入るは見慣れない白い天井。しかし見知らぬ天井ではない。一般家庭より高い位置に見えるそれは、よく見ると職人芸の模様細工が施されている。
(あー‥、夕べはトーマん家に泊まったんだっけな、)
もそりと起き上がった。はだけたシーツの下から自らの裸体が出てきて、事後のまま寝た事も思い出す。
(シャワー‥浴びようかな)
それとももう一眠りするかな。
サイドテーブルに置かれた時計は夜明け前を指していた。ベッドが窓際にあるので少し手を伸ばすとカーテンに簡単に届く。
ちらりとめくる。
うん、まだ暗い。
急に喉の渇きを覚え、時計の隣にあったペットボトルを手に取った。こくりと程よく冷えたままのミネラルウォーターが喉を鳴らす。
「ふぅ、」
隣ではトーマが同じく裸のまま熟睡していた。そういえば変な夢を見ていたなと、考える。さっきまで色濃くあったはずなのに、思い出そうとすればするほど目蓋の裏で霧散し、消えていった。
‥悲しい、夢だった気がする。
何となくまだ眠いので、シャワーは後でいいやと枕に顔を沈めた。
きゅう、と手を握られる。
「わりぃ、起きちまったか?」
「いや、夢から不意に覚めただけだから」
トーマの低めの体温が掌から伝わる。
「ちょっと、夢見が悪くて‥暫くこうしてていいかい?」
「ははっ、いいぜ。どんな夢だったんだよ」
「実はあんまり覚えていないんだ、でも」
悲しい、夢だった気がする。
一緒だ。
トーマの台詞にそう思った。
自分も覚めるまで見ていた夢は、きっと同じモノだったのではないかと考えた。何故かは解らない。何となく。そう、何となくだけど、多分、あってる。そんな気がしてならなかった。
「悲しい?」
「そう。凄く。」
「オレも、」
「うん」
「夢を見た、かなしー感じの。はっきり覚えちゃいないんだけどさ。たぶん、同じ夢」
言い終わるか否か、トーマの手がのびてきてマサルの頬にそれを添える。
「泣くな」
泣くなマサル。
そこで初めて涙を流していたことに気付いた 。
「うわ、なにこれ。すまん、ダサいとこ見せた」
ははは、と空笑いもむなしく涙は止まらない。
「大丈夫。僕しかいない。泣いていいよ。でも最後は笑っていてね」
幸せだ、
幸せだ。
何気ないやり取りが、感情を分かち合えることが、すぐ傍にある温もりが、幸せだ。
「わりぃ、さんきゅ」
「それより何か着た方がいいよ、お互い、ね?」
両方とも裸だったことを思い出して笑う。
服も着ずになにをしているんだと。
そうしてまた涙が出てくる。
幸せで。
それは、ぜんぶ悪い夢さ。
そうとも。
(ぜんぶ、悪い夢でありますように)