追記


4.俺は救世主なんかじゃないから利己的な人間だから



まるで自分の身体ではないように、鉛の様に重くて、鈍くて、力の入らない足を叱咤させ、なんとか帰り着いた俺は、それはそれは有らん限りの歓迎を受けた。当然だよな。いま、祝福を、世界が受けたんだ。誰でもない、俺の、おかげで。

ありがとう、ありがとう。


「これからは何の不安もないわ」

そうだな。

「幸せな未来が待っているよ」

きっと、そうだ。

「明日から毎日が楽しみだね」

そうだな、本当に、そうだ。


一緒に幸せに暮らそう。
共に楽しく生きよう。
ずっと喜びを感じていよう。


でも、ごめん。
ごめんな。

そこに俺は居ない。
これから先の世界に、もう居ない。

知ってるよ。
俺が居なくなったら、皆が泣くってことくらい。寂しくなるし、不安になるし、悲しくなる。
父さんも母さんもチカもごめん。
ヨシノもみんな、皆ごめん。
ありがとう。

俺はどうやら、「救世主」なんて立派なタマじゃないみたいだ。自分の気持ちにはどうしても嘘つけねえからな。

だから、行くな。
アイツのところに。
幸せだったよ。

「本当に、幸せだった」

本当に幸せだった。

ありがとう、ありがとう。
それじや‥さよなら。



盲目のままに生きる世界には理解し得ないのだろう。なぜ「救世主」が姿を消してしまったのか、ついに理解する者はいなかった。

こうして世界は、また少しだけ、広くなった。
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