追記
2.争いが運命というなら恋に落ちたのも運命なのに
僕は、ただ欲しかっただけなんだ。
生まれた時から世界の「負」として分類された僕は、何も無いまま生まれ育った。
友も、恋人も、家族も、僕は持っていなかった。愛も夢も希望も絶望さえも、何もなにも持ち合わせていない。「無い」を「持って」いるのだ。
僕は、彼との邂逅で初めて自分は何も「無い」者と理解し、同時に全て(そう、彼)を欲しいと思った。身が焦がれる程の強い願い、衝動にも似た想いが溢れてきた。
惹かれてしまった。
魅せられてしまったんだ。
真逆の分類に属する、「救世主」の彼に。
ヤツは、ただ欲しかっただけなんだ。
生まれた時から世界の「正」として分類された俺は、小さな時から全てを持っていた。
ダチも、気になる子も、家族も、俺は持ってた。愛も夢も希望も絶望さえも、なにもかも持ち合わせていた。「無い」を「持っていない」くらいだ。
俺は、ヤツとの出会いで初めて自分は全てを「持つ」者と理解し、同時に何もいらない(そう、ヤツさえ居れば)と思った。身が焦がれる程のヤツの強い願いが、衝動にも似た想いが伝わってきた。
惹かれてしまった。
魅せられてしまったんだ。
真逆の分類に属する、「魔王」のヤツに。
惹かれてはいけない相手。
惹かれざるを得ない相手。
それは今まで当たり前と受け入れていた「分類」という定義付けられた世界に初めて異議を立てる事になる。
「当たり前」をしたくない。
そう思ったからだ。
だって、争うことが「当たり前」だと言うのなら、手に手をとり蕩ける程見つめあって一つになりたいと思うくらい、心臓が高鳴るこの気持ちもなって「当たり前」なのだから。
きっと生まれる前は一つで、この世界によって二つに「分類」されてしまったのだ。
そうだ、きっとそうだ。
でなければ、こんなに。
僕は、
俺は、
食い込む刃が、
手に伝わる感触が、
もうすぐ別れを告げなければいけない君が、
もうすぐ息絶えてしまうお前が、
視界から外したくなくて、
視界から消してほしくなくて、
こんなにも、
こんなに、も。
悲しくならないはずが、
ない、から。
この日、「救世主」は初めて持っていた全てを、無くした。