追記


やばいな、とマサルは一人百面相してみたり頭をかかえてみたりした。

何がやばいって、考えこみ過ぎて普段なら2、3日はもつ一箱をこの休憩中に全部吸ってしまったのもそうだが、先日同僚のトーマにしでかした事で悩んでいたのだ。

トーマとは小中学校とずっと連んでいた悪友というか、ライバルというか、そんな存在だった。一緒にバカやって楽しい9年間だったけど、高校から離れ離れになってしまったんだ。元々住む世界が違うとは思っていたけれど、やはり育ちも頭も良い彼は到底手の届かない私立の学校へ進学して以来、音沙汰なしだった。

卒業して別れる際に、自分は酷く名残惜しいというか、なんともおかしな表情をしていたに違いない。ケータイもなくて家も知らない。一番近くにいた奴が一番遠くになってしまったあの時。初めて鬱々としたものだ。

それから10年。まさか同じ会社に就職するとは思わなかった。えらい優秀な新人が同期にいるとは聞いていたが、それがトーマのことだとは夢にも思わなかった。俺は久々の再会にテンションが上がったのを覚えてる。

そんなアイツと昔みたいに話し始めたのはつい最近。この俺たち以外に使わない喫煙室で。トーマのお気に入りかつ秘密の場所らしい。
俺だけが知ってる、俺だけが教えて貰えた。こんなに嬉しいことはない。再会したあの日。ああ、俺、こいつが好きなんだなって、他人事みたいに理解した時から。ずっと存在していたモヤモヤがストンと自分の中に入って綺麗に消え去っていくのが分かったあの時から。

昔から、恋愛感情でトーマが好きだと気付いたんだ。

この間、本気で死ぬんじゃないかってくらい疲弊していたトーマに。ちょっと、挑戦してみた。普段のアイツには出来ないけど、この状態なら言い訳できるかと思って。

ライターを無くしたふりをしてタバコの火を貰うこと。アイツのくそ高いジッポーからじゃない。くわえて吸ってるタバコから、直に貰うことだ。

‥うん。気持ち悪い挑戦を何故しようと思ったのか‥あの時の俺を呼び出して小一時間問い詰めたい‥。
言い訳もなにもなくねえか?
あああ本当にバカだ自分バカだ。

と、こんな調子で今は一人きりの喫煙室でマサルはただ悶えていた。

「あ〜くそ、どうすっかな‥」

くしゃりと空のタバコの箱を握り潰した。吸うものが無い以上、ここに居たって仕方ない。トーマが休憩に誘ったから来たが、当の本人は一息つかせる目処がつかないのかまだ来ていない。先日やらかした「挑戦」に引かれているそぶりはないようだが、正直一緒に居るこの一時が一番幸せで最悪だ。自然な感じ(だったと信じたい)で念願のケータイ番号は手に入れたけど、これより近付く方法が分からない。もどかしくて好きな時間だけど辛い時間だ。

また変な事をして引かれないか心配だし、かといって全く行動しないのもまた性に合わない。つくづく慣れない事はするもんじゃないと思うのだが、もっと傍にいきたいと欲は高まる。バレて気持ち悪がられて二度と隣には居られないんじゃないかとも、考えるけど。

だって、でも、あいつは、嫌な事はハッキリ言うし、この間の火を貰うやつも‥そんなに深くは、何も思ってない、はず。大丈夫。

「マサル」

ぎゃあっ!と悲鳴が出た。うだうだ考えてる最中に冷たいものが頬に当たったのが原因だ。

「ななななんだよ!‥コーヒー‥びっくりさせんな!つうかおせーんだよ!」

「ごめん。ちょっと長引いた‥しかし珍しいね。この短時間で一箱潰したの?‥なにかあったのかい?」

「う‥あ、いや‥大丈夫。」

「‥そう。それよりマサル、今夜暇かい?美味しいバーを見つけたんだ」

「おーマジ?いいねえ、行く行く」

「よかった。そういえばこの企画って‥」

たまにバカ話、たまに真面目に仕事の話。うん。まだこれでいいかな。この自然な感じが俺たちだし。どうしようも無く切なくて苦しいけど。10年前とは別の関係に、勝手にしてしまったけど。

とりあえず僅かな2人きりに、隣を想いながら。やつから貰った一本に火をつけ、紫煙を燻らせた。


はい終わりー!
某S様にけしかけられ書いたおまけ的な。
実はトマ(→)←マサでしたー!
的な‥。
心配しないでマサル。これから自覚したトーマからうざいほど露骨なアタックがくるよ←
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