追記


「ヨシノは二十歳になったら何したい?」

というララモンとヨシノの何気なーい会話がそもそもの始まりだった。

「そうねぇ、未成年じゃないってだけで選択肢が広がるし‥まずは無難にお酒でしょ?それから‥」

「あーらヨシノ。その分責任も増えるのよ」

「楽しいことばかりじゃないんだから」

何故か黒崎と白川が思いっきり出鼻を挫きにやってきたのだ。

「わ、分かってますよそれくらい‥」

「そうかしら?言っておくけど、私達からしたらマサルもヨシノもまだまだ子供なんだからね」

「そうそう。まだ18才なんて、子供なんだから」

「なんだよ二人して、嫉妬か?」

マサルが何の気なしに笑いながら言うと、いつも以上に異常な絡みを見せるオペレーター達から、それはそれは薩摩顔負けの鋭い眼光が飛んできた。

「‥嫉妬ぉ?なんですってマサル‥」

「ちょっとそれどういう意味よ‥」

「いやっ、べ、別に‥ジョークだって!ジョーク!ははははっ!」

はははっ‥と空笑いは威圧的な二人の前で虚しく消えていった。

「そうだぞマサル。二人は節度ある正しい大人としてアドバイスしてくれようとしているんだ。嫉妬などナンセンス。魅力的な大人の女性からの助言、だ」

これに耐えきれなくなったトーマがマサル曰く胡散臭いスマイルで、キラキラと効果音が付かんばかりに微笑みながら口を挟んだ。
「キャーそうですよねえ」なんて一気に機嫌が良くなった黒崎と白川に誰より安堵のため息をもらしたのは他でもないトーマである。
だって本当は先の威圧に掌は汗でびっしょりだったのだから。

「しつもん、いいか?」

はい、と手をあげたイクトに「なあに?」とご機嫌は継続のまま黒崎が答える。

「二人は、いくつなんだ?」

あ、顔がひきつった。
ガオモンは主を見て同情的に目を細めた。
人間のいわゆる「大人の事情」的な機微に疎い彼から、絶対に今言ってはならないNGワードが投下された事により、マサルの時とは比べモノにならない程、冷たい空気が一瞬で蔓延してしまった。

「い、イクト!そーいえば腹減ったって言ってたよなぁ!そろそろ昼だもんな、よっし、休憩行くか?」

イクトが殺られる。
そう本能が告げるマサルが噛み噛みに明るく振る舞いながらオペレータールームを出ようとした。
が、

「あーらマサル、、、お昼にはまだ早いんじゃなかしら、、、?」

「そうよ、、、おやつだってさっき食べたでしょ、、、?」

怖い。
なんでちょっと丁寧な物言いなんだよ。
語尾の余韻がただ怖い。

二人を凌駕し得る存在、薩摩はなぜ居ないのか。誰もが彼の不在を嘆き、同時に怒りも覚えた。彼さえ居ればこんな地獄の時間は生まれなかったはずだ、と。責任者はどこか!

「もー!!いい加減にしてください、黒崎さんも白川さんも!」

勢いよく立ち上がりヨシノが叫んだ。

「イクトにまで突っかからないで下さいよ。どうしたんですか?」

「どうした?別にどうもしないわよ、ねえ?」

「そーよ、別にこの年齢で相手もいなくて焦ってなんかいないし合コン三昧にもかかわらず何一つ成果がないとかないし最近は呼んですらもらえないとかないし乙女ゲーが思いの外楽しくてハマったりとかないしダイエットも昔みたいに痩せにくくなったとかないし」

「「全然そんなことないし!」」

‥ああ、うん。
要は八つ当たりだったんですね。
ヨシノとララモンの何気ない会話が引き金になったという理不尽な現実に気が付いたのは、やっと待ちに待った薩摩が帰って来た時だった。



黒白コンビの連携の良さが好き(笑)
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