追記


「卒業式、かぁ‥」

珍しくヨシノがアンニュイなため息をつきながら呟いた。

「そういえば今日は3月1日よね」

「高校卒業式かぁ‥」

黒崎と白川が今日のオヤツを配りつつヨシノの呟きに参加する。

「さっき用で外に出たんです。桜はまだ咲いてないけれど、今日はすっごく良い天気だし、風も穏やかだし、式終わりの卒業生達が皆で写真撮ったりはしゃいだりしてて‥」

「就職だったり進学だったり、もう会わなくなる人も出てくるのよねぇ」

「大学後期で受けた子は発表待ちじゃない?私の時もそれでずっと心ここに在らずって同級生いたなぁ」

今日の話のネタは卒業式、らしい。マサルは小学校しか経験してないし、トーマは大学卒業時に何も思うことが無かった為、いまいちピンとこないまま黙って話を聞いていた。

「妙に寂しくなっちゃうんですよねー‥。毎日毎日通ってただけに。机の傷とか、窓の汚れとか。ずっと伸びる廊下にあまり入ったことのない教室、校庭の景色や体育館の匂い‥」

「ああ〜わかる!椅子の引く音とか、屋上で食べたお弁当の味とか、思い切って告白した思い出の場所とか〜!!」
「ずーっと使ってた鞄、靴、手帳‥今見たらなんてくたびれてボロボロなんだろぅ、って思うのよねー‥。皆何しているのかしら‥」

「「なんだか懐かしいわね〜」」

「ですね〜」

カメモンの淹れてくれたお茶を飲んで、コトリと湯飲みを置き、会話が一段落して休憩はお仕舞いとなった。

「卒業式ってなんだ?兄貴」

「卒業式わね、学校の皆とお別れすることよ〜」

マサルの代わりに答えたのはララモンだった。

「お別れ?なんでだ?」

「決められた学業を終わらせたからよ〜」

「ふあ〜‥??」

いまいち理解出来ずなんだか情けない声がアグモンから出た。

「卒業、か‥」

「マスターは大学の卒業もクールでしたね」

「学びたかった事を吸収出来たし達成感はあったが‥別れに関して思うことは特に無かったかな‥」

うーんとヨシノ達の会話が理解できない風にトーマは当時を振り返った。

「卒業式か‥俺は来年、だな」

ポツリとマサルが頬杖をつきながらさっきまでのヨシノの様に何だかアンニュイなため息混じりで呟いた。

「兄貴も卒業するのかぁ?」

「来年で3年生だからな。」

「3年生になると卒業するのか?」

「高校かー、ははっぜんっぜん想像つかねぇや」

「そうか‥普通は‥そうだからな。来年マサルは受験生になるのか‥卒業、するのか」

なにかの琴線に触れたらしいトーマが急にしんみりとする。一般的ではない青春の過ごし方に、少し、思うことがあるようだ。

「マサルが受験生‥変なワード‥」

「おいおいララモン‥?」

「マサル。今から対策を考えないと進学出来ないのでは?早めにマスターにアドバイスを求めた方がいい」

「なんだよガオモンまで!」

「安心しろ兄貴!3年経ったってオレは兄貴から卒業しないぞ!だからお別れなんてないんだ!」

「いや、それはそれでなんか‥んーまあ別にいいか!これからも喧嘩しまくるぞアグモン!」

おーう。アグモンの威勢の良い声の陰でいつもより柔らかく、そして寂しく微笑むトーマは羨ましい気持ちでマサルを見つめる。
ヨシノやマサルの様な経験が無いことが酷く悲しく、勿体無い気がしたからだ。
これも春独特の雰囲気のせいかと、仕事に戻るべく指を動かす。

「でもお別れの後は新しい出会いがあるものよ。悲しいことばかりじゃないわ」

誰に言ったでもないララモンの一言に、救われた気がしたのは、多分、トーマだけじゃない。

春だな。と一連の会話を聞いて思った薩摩の、サングラスに隠された眼光はいつもより穏やかだったと、後にクダモンは言う。

それは良く晴れた、不意にうら寂しさにに襲われた、ある3月1日の何気ない日常の一コマ。



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ギャグっぽくするつもりがつもりだけになった‥。
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