追記


その人も、穏やかに笑う人だった。
自分の意思で愛した人を守りきることが出来なかったわたしに、ただ優しく、そして哀れむ人だった。

きん色の髪をなびかせる姿はどこかあの人に似ていて、不意に想いだしたわたしを責める事はしない人だった。

母が勝手に決めた相手で、選ばれた理由も家柄や経歴などだったが。わたしは前の愛しい人と比べられないほど、大切な人になっていた。

ただ一つ。違ったのは。
いつも寂しそうにしていたのと。
身体の丈夫な人ではなかったこと。

余命幾何も無いと聞かされたのと、小さな命が宿っていると聞いたのは、同じ時だった。

狼狽えているといつものように寂しく口元を緩ませながら。元々二十歳を過ぎたらいつ死んでもおかしくなかったと、とうの昔に余命宣告はされていたと、彼女は微笑んだ。


その人も、強い人だった。
そんな彼女が声をあげて泣いたのは、産まれた娘が重い病におかされていると知った時だった。
それから気を病ませ、床にふせる日が続いた。少しずつ弱っていくのを、ただ見守ることしか出来ない歯痒い日々を、送っていた。ある日。

その人は言った。


息子と娘の成長を見届けれそうにない私を、許して欲しいと。そして。いきなり小さな背中に全てを負わされ、困惑していたトーマに、もう力の入らない手を伸ばしながら精一杯の笑顔でこう続けた。

妹をよろしくお願いします。


その数分後。
静かに、彼女も息を引き取った。


懐かない息子。
病弱な娘。
逆らえない母と、血筋に。
一瞬、二人が逝った所へ。
皆を捨てて行きたかった。

でも息子が。
妹の病気を治したいと決めた時。
その決意を聞いて。
わたしは泣きたかった。


そうして、
貴女の息子も、
貴女の娘も。
今度こそ、
今度こそ守ってみせる。
守り通してみせる、と。
やっと、そう決めた。


その人と同じ笑い方をする息子。
その人と同じ微笑みをする娘。

全てを許した貴女。
全てを赦した貴女。


二人と出会えた事は、わたしの人生において何よりの宝であり誰よりも「愛した」という事だった。


やっとそう思えるようになった。
やっと声にして言えるようになった。

「ありがとう」

わたしと、出会ってくれて。


奇しくも同じな二人の命日に。
薔薇の花束を持って。
オーストリアと、日本と渡り。
そう、呟いた。
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