上唇のしたにのぞく歯

2011/02/27 22:33


眠りに就く時間こそ変わらぬのに、朝の七時をまわれば自然と目を覚ますようになったのは、冬が峠を越えた証拠なのだろう。しかしながら、ここ数日吹雪に見舞われることは無くなったとはいえ温もりを感じるには程遠い朝日だから、ベッドからずり落ちかけた布団の類を引き寄せて夢の世界を思い出す。最近、夢をあまり覚えていなくて寂しい。





グラタンを食べたいと思い立ち、ついでに外でちょっとした作業を済ませようと出かけたものの、穏やかな日曜日ほど街がごった返す日はない。駅ビルの軽食喫茶の店に滑り込むように身を落ち着けて、ストライプのエプロンの店員がグラスをコトリと置くや否や、あ、ポテトグラタン、と口をついてしまった。阿呆のような私の一言を、厭にゆっくりと噛み砕くように繰り返して踵を返した彼の背中を、誰かに似ていると思って見つめていた。

実は、グラタンを作ったことがない。マカロニを茹でる手間が途方もなく煩わしく感ぜられて、どうにも作る気にならないのだ。しかし私は調味料を混ぜ合わせたり、材料を包丁で切ったり、火加減に気を遣ったりといった過程には楽しみを見出しているつもりであるから、調理が面倒というよりは、たった一品のために多くの調理器具を用意せねばならぬのが嫌なのかもしれぬ。グラタンの美味しさは知っている、しかしそこに辿り着くまでが厭わしい、いまいち愛着の湧かぬ食べ物であると思っている。何故だろう。





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