PERSONA5 the FAKE | ナノ


15

ブラック企業問題は、以前からも社会問題として様々な訴えが出ては鎮火している。そんな中で、『ブラック企業を駆逐せよ』という風潮がかつてない程に強まり、今回『オクムラフーズ』が槍玉に上げられたのは、同社の社長である奥村邦和が元々『カリスマ経営者』として持ち上げられていた事からの反動も一つの要因としてあった。
加えて、オクムラフーズには、ブラック企業の疑惑だけでなく、“ライバル他社に次々と不幸が起こっている”という妙な噂もあり、奥村邦和を取り巻くあらゆる要素が、世間の野次馬根性に火を付けていた。勝手にターゲットを設定し、外側にいる大衆は、まるで、映画でも観ているかのように、娯楽的な感覚で怪盗団の動向を追っている。
世間が期待している事、奥村の悪事、目の前にある事の重大さは、怪盗団のメンバー全員が理解していた。それでも、今、彼らが優先して解決しなければいけないのは、仲間内での問題だった。

 *

モルガナと話をして、彼が怒っている理由を探り、謝ること。それが今回のミッションだ。
メメントスの入口、薄暗い地下鉄の改札で、蓮たちは深い紺色の影を待っていた。
「いい?モルガナが来たら謝るんだからね」
「わーってるっつの!俺だけに言うな!」
杏が竜司に念を押し、同時に不機嫌そうな靴音が人工的な洞窟に反響する。
モルガナに負けず劣らず、竜司もまた意地っ張りだ。基本的にはまっすぐで心根の優しい少年だが、思春期が故か“素直になれない”ところがある。自分が本当はどうすべきか…それを頭では理解していても、言葉や態度としてストレートに出せないまま、変に拗らせてしまうことも多かった。
モルガナを怒らせてしまったのなら、彼に戻ってきてもらうには此方から寄り添って謝るのが最善だ。勿論分かっている。分かっているけど、“ガラ”じゃない。そんな具合で。
「今回の件は、みんながそれぞれ一歩ずつ足りてなかったんじゃないかな」
「大人だな、咲は」
「お互い謝り合ったら、すぐ元通りになれるよ。モルガナだって、きっと本気で抜けようとしてるわけじゃないと思うし」
「そうね。それに、モルガナが戻ってくれば、美少女怪盗を味方につけることも出来るかもしれない。オクムラを本当にやるとして、彼女無しには難しいわ」
「あのパレスを二人っきりで攻略するってのも相当厳しそうだった。わたしも、“全員で仕切り直し”に賛成だ」
ミッションの方向性を全員で再確認し、ひたすらに待つ。
そして、経過の程も分からなくなってきた頃、静かなメメントス内に聞き慣れない音が響き、外界からの風と共に『ターゲット』はやってきた。
ふわりとした柔らかな少女と、二足歩行の猫――奥村春とモルガナだ。揃って登場した二人は、改札口で待機していた少年たちを見つけると、サッと身構えて立ち止まった。
「またオマエらか!」
「私たちにご用?」
彼らの目は、完全に敵を見る時のそれをしている。ただ、蓮たち怪盗団はここで喧嘩をする気など毛頭ない。この温度差を象徴するように真が小さく息を吐いて、緊張感で浮いた肩をそっと落とした。
「あなたたちと争うつもりはないわ。ねえ、モルガナ。そろそろ機嫌、直してくれない?」
「…つまり、ワガハイ目当てってワケか?」
「ああ、モルガナがいないと困る」
「やっぱりワガハイが居ないとダメなのか?そうなのか?」
「うん。わたしたち、モルガナに引っ張ってもらってここまで来たんだもの」
真に続いて出された蓮と咲の言葉に、モルガナは少しだけ表情を和らげ、ピンと毛を逆立てていた尻尾がいつもの調子に戻りかけた。
「ごめんね。モルガナの気持ち、考えてなかったよね」
「アン殿…」
「竜司もさ、謝りたいんだって。ね?ホラ」
張り詰めていた空気が解けた所で杏が竜司を促す。不機嫌そうに壁にもたれ掛かっていた竜司だったが、杏につつかれて身体の重心を前方に傾けた。
「ま、俺も悪かった…」
少し調子に乗って、余計な事を言い過ぎた。そう呟くように謝罪の言葉を落とす。それから“らしくなさ”を誤魔化すように頭を掻いて、彼なりに次の言葉を探した。
「つーかさ…別に、人間じゃねえとか、役に立たねえとか、そんなの気にしねえって!」
ああ――と竜司以外のメンバーが頭を抱える。恐らくこれは竜司の“励まし”だ。だが、やはりデリカシーに欠けている。周りのフォローが入る隙間もなく、彼の言葉は即座にモルガナの地雷を踏み抜いた。
人間であるかどうかも定かではなく、怪盗団の中で明らかに『異物』である自分。自分で自分が何者なのか分からない不安。コンピューターを駆使してあらゆる情報を解析できる双葉の登場で、“パレスに詳しい”という立場を奪われかけている危機感と劣等感。
それらの焦りが、モルガナの中でやり場のない怒りに変わって、やり場のないまま“気付いてくれない”仲間にぶつけている。それがどれだけ、ワガママで身勝手な事かはモルガナ自身も分かっている。必要とされたくて、もっと自分の事を見てほしくて、幼子みたいにに駄々をこねて拗ねているだけだ。
だけどもう、簡単に後戻りはできない。
「ああ、そうかよ!どうせワガハイは役立たずだよ!そこまで言うなら、オマエら相当デキんだろうなぁ!?」
たとえ見た目通りの猫だろうが、それなりにプライドがある。相手に悪気が無かったとしても、軽んじられて踏み躙られたまま、良い顔ばかり向けてはいられない。
爆発した怒りのまま、己の能力を示すように、モルガナは自身の姿を車へと変化させた。目の前の人間達には出来ない芸当。以前に、仲間“だった”一人が『ありがとう』と認めてくれた、彼だけの力だ。
「話がしたいなら、ワガハイのこと捕まえてみろ!美少女怪盗、乗れ!」
それから、今唯一の仲間である春を乗せ、モルガナはエンジンを唸らせた。

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