PERSONA5 the FAKE | ナノ


14

駅前で新島真と別れた蓮と咲は、暗くなり始めた渋谷の街を歩いていた。ここから数時間、ビルの窓から覗く人工的な光が存在感を主張しながら、世界を煌めかせる時間がやってくる。四方から人々が行き交う交差点を抜けた二人は、近くのファミレスへと入り、案内されたボックス席で同時に溜息を零した。

「同じこと考えてる?」
「多分そう」

最初に口を開いた咲が大きな瞳をきょとんと丸め、それに応えるように笑った蓮がサイドに立て掛けられたメニューを取る。最初のページを咲に向けて開き、彼は窓の外を見た。

「この間と同じ席だ。鴨志田を改心させた後くらいだったっけ」
「…うん。同じ席」
「あと、してやられた。奥村さんに言われた事…結構刺さったよ」
「うん。やっぱり同じこと考えてた」

怪盗団は、“何をしたいのか分からない”集団――奥村春の下した評価は、今回仲間が一人脱してしまった事と合わせて、今自分たちが直面している問題だ。
弱い立場の人を助け、社会に蔓延る理不尽な悪を暴き、世界を改めたいという意識は、割合の差はあれど全員に共通している筈だが、その中で、人気に浮かれる者、逆に怯む者、気にせず進もうとする者が出るなど、明確な齟齬が生まれ始めている。

「それに、奥村先輩は、部外者のわたしたちと違って、当事者として“家族の問題”を解決しようとしてるんだもんね」
「モルガナの事もあるし放ってはおけないけど、正直そこに関しては返す言葉も無いかな」

戻ってきたメニューの中からカフェラテを選んだ蓮が顔を上げると、正面の彼女が“それも同じ”と笑う。二人分のカフェラテをオーダーしてメニュー表を戻し、テーブルの上に乗せていたスマートフォンをポケットへと仕舞った。それから、窓の外を眺めていた咲の唇が動き出すのを見て、彼女の声が脳へと届くのを待った。

「自分の親を改心させる…って、相当な覚悟だよね」
「うん」
「けど、それくらい、奥村社長のやっていることは間違ってるって事なんだよね」
「本人が言っていたように、娘としての“償い”なんだと思う。身内だからこそ、悪い事は悪いと示して、正さなきゃいけないっていう」
「…うん」

暖かな空気で人懐っこさを覗かせながらも、奥村春の瞳は一度も揺るがなかった。怪盗の正体を明かした時も、協力を申し出た時も、彼女の覚悟がブレることは無かった。
奥村邦和がどれほどの許されざる罪を抱えているのか――パレスの様子だけでは知り得ない所まで、娘の春は見ているのだろう。過去だけでなく、現在進行形の罪として。

「咲は、いる?改心させたいくらい、どうしても許せない人とか」

話の矛先を変えるため、そして、いつになく考え込んでいる咲の気持ちを探るため、蓮はふと、そんな雑談を口にした。彼の問いに、綺麗な横顔がふらりと方向を変え、蓮の眼鏡にオパールの瞳が反射した。

「うん、いるよ」

突然投げかけられた質問に対する戸惑いや、答えづらい内容への躊躇は無かった。桃色の唇が迷うことなく動いたことに、蓮の方が少しだけ怯んだ。

「意外だ」
「そうかな?」
「少なくとも、即答されるとは思わなかった」
「ふふ、結構ずっと考えてる事だから」

ひとつ、あっさりと爆弾を落とした芹澤咲が、なんでもないような顔で微笑む。怖いくらい、いつも通りの笑みを浮かべて、彼女は睫毛の先をテーブルへと落とした。

「一人は、あなたを陥れた犯人。絶対許さない」
「“一人は”…ってことは、まだいるのか?」
「うん。でも、こっちはまだ許せるかもしれないから内緒。いつか話せそうになったら、ちゃんと言うね」

水の入ったグラスを両手に、結露した水滴を指で奏でるように弾きながら、芹澤咲は透明な眼差しと共に顔を上げた。彼女の瞳は、何も心配いらないよ――と、気丈に語っていた。

「俺に、何かできることある?」
「寄り道楽しいから、今のこれで十分すぎるくらい。ありがとう」

“わたしも隠し事しちゃってるね”なんて笑って、“お互い様かな”と言って誤魔化して、流して、それがあまりに鮮やかで、蓮はこれ以上踏み込めなかった。
一歩間違えれば、壊れてしまう。危ういバランスの上で、細い糸を渡るようにして繋がっている中で、一歩引いても踏み出しても、何かが壊れてしまうような気がした。

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