PERSONA5 the FAKE | ナノ


13

同級生の少女同士が、後輩二人を間に挟みながら中庭で対峙する。
「オクムラフーズ代表取締役社長、奥村邦和の一人娘。どうして、その父親のパレスに居たのか、説明してもらえるかしら?」
先に口を開いたのは、新島真の方だった。しっかりとした口調で、まっすぐと前を見据えて、淡々と用件を述べていく。
一方の奥村春はというと、突然現れた同級生に一瞬だけ目を見開き、しかしすぐに笑った。彼女が湛えたのは、誤魔化しや困惑といった類のものではなく、少し安堵の混じったような優しい笑みだった。
「そうか…やっぱりそうだったんだ。すごいな、一日でバレちゃった。あの世紀末な格好、すごく似合ってたよ!」
「その話は…やめておきましょ…」
向けられた無垢な微笑みに、真が一瞬怯む。もっと警戒されるかと思っていた手前、当然のように話を受け入れる奥村春の柔らかな態度に、少しだけ拍子抜けした。
真は周囲の様子を見回し、他に誰もいないことを確認すると、もう一度目の前の同級生へと向き直った。
「なんで怪盗に?」
真の問いかけに、奥村春の暖かな表情が一瞬にして曇る。彼女は目を細めながら視線を落とし、何かを祈るように両の掌をぎゅっと握り合わせた。
「お父様は経営者として評価されてるけど、私…いろいろ疑問があるの。実際、大変なことになってるの知ってるよね?」
春の言う“大変なこと”とは、オクムラフーズがブラック企業として元従業員に訴訟を起こされ、連日大ニュースとなっている件だろう。どこまで事実なのかは春自身にも分からないが、会社の代表取締役であり、自身の父親とでもある奥村邦和という人間に対し、彼女もまた漠然とした不安と疑問を感じていた。
そして、その『疑問』は、つい先日『確信』へと変わった。彼に『パレス』という強く歪んだ欲望の世界がある事を、“とある人物”が教えてくれたからだ。そこで、自分の目で父親の『歪み』を見た。娘として、最も身近な人間として、歪んでしまった父親に出来る事を考えた結果、奥村春は『怪盗』になることを決めたのだ。
「自己満足かもしれないけど、これは私なりの『償い』。お父様の会社を直接変えることはできなくても、怪盗になればお父様自身を変えることができる。でも、こんなの“逃げ”かな…?」
父親に考えを改めてもらう事を、怪盗の力に頼る。それが本当に正しい手段であるのかは自信がない。ただ、親の罪を知った子として、自分が楽になりたいがための逃げかもしれない。奥村春は自嘲気味に微笑んで、ふわふわの髪を風の中で揺らした。そんな彼女の言葉に、咲は一瞬だけハッと息を呑んだ。奥村春の『償い』に、その『動機』に、隠していた傷口を穿つような痛みを感じた。
「モルガナとは、『異世界』で会ったのかしら?」
「ううん。会社のビルの前で見かけて、追いかけてったら『あそこ』に入っちゃったの。だから、本当に偶然。あの世界の事は、その時に色々教わって…」
真の質問攻めをひらりと飲み込む春には、只者ではないオーラがある。柔らかな物腰で温和そうにしていながらも、持つべき芯はしっかりとしている強い女性に違いない。
彼女の返答を聞き、真は少しだけ考えてから、組んでいた腕を解いた。
「…私たち、協力できないのかな?」
目的は同じだ。奥村邦和を改心させるという、“やりたいこと”は一致している。パレス攻略の大変さを知っている身からすれば、当然仲間の数は多い方が良い。しかし、真の提案に、奥村春は視線を外して俯いた。解いた手を身体の横で強く握る仕草は、声にして聞くまでもなく『NO』を突き付けていた。

「何がしたいのかわからない人たちと協力なんてできないよ。今じゃ無駄に世の中を騒がせているだけだし」

怪盗団の“やりたいこと”は、自分の“やるべきこと”とは違う。
目的が同じだとしても、志すものが違う。
春は外した視線を元へと戻して、まっすぐと三人のスクールメイトを見つめた。

「私はただ、お父様に罪を償ってほしい。それから、そのきっかけをくれたモナちゃんのお手伝いをしたいだけなの。モナちゃんが怪盗団を抜けたと言うのなら、二人だけで行きます」

大地を思わせる彼女の瞳には、揺れ動くことのない強い意志が宿っていた。

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