PERSONA5 the FAKE | ナノ


12

『奥村春』――杏が写真名簿で見つけた少女の名前だ。ふんわりとウェーブのかかったシナモンピンクのショートボブが、昨日パレスで出会った美少女怪盗とよく似ている。何より彼女の苗字は、今回のターゲットである企業社長――奥村邦和と全く同じであった。こればかりは見過ごすことのできない『要素』もとい『証拠』だと言っていいだろう。
結論として、奥村春はオクムラフーズの関係者および、例の美少女怪盗である可能性が高い。生体認証式のドアを難なく開けた事も、この推測が正しければ説明が付く。
本人への確認は明日にしようということになり、早々に下校していった竜司と杏、戸締りをしてから帰るからと残った真に切り離される形で、生徒会室から出た蓮と咲は、夕陽に染まる廊下を歩いていた。
「杏も竜司くんも、実は忙しかったのかな?大丈夫かな」
「竜司は夕飯の買い物頼まれてるとかだったと思うから、多分大丈夫だ。杏はバイトだったかもしれないけど」
「偉いよね、皆。色々両立させてて。真先輩とか、受験勉強に生徒会に…って大変なはずなのに、そんな素振り全然見せないし」
「ウチの委員長さんだって偉いよ。涼しい顔で色々こなすから、周りからは“当たり前”みたいに思われがちだけど」
「そっくりそのまんまお返しします。蓮くんがリーダーじゃなかったら成り立ってないだろうし、わたしなんてホント助けられてばっかりなんだから」
他愛ない話をしながら玄関から校舎の外へと出て、空の具合を確認する。蓮にとってもすっかり馴染みの景色となったそこには、やや曇りがかった朱と紫のコントラストが浮かんでいた。それから視線を水平に戻したところで、二人の視界に、園芸肥料を大量に乗せた台車を必死に押す少女の背中が目に入った。普段なら横目に流れている景色の中でそれがある種の“違和感”として目に留まったのは、蓮たちが彼女を求めていたからだ。
見覚えのあるふわふわの髪を揺らし、二人の目線を一瞬にして奪ったのは、他でもない奥村春だった。新島真と同じくらい小柄な少女で、彼女が力いっぱいに押しているであろう台車は、動いている様子が無い。
「あの…大丈夫ですか?」
蓮と咲が声を掛けると、学校指定の赤ジャージに身を包んだ彼女が、くるりと振り返った。名簿の写真でも確認はしていたが、確かに、大きなブラウンの瞳が印象的な美少女だ。自身の名前である“春”を象徴するような柔らかい雰囲気を纏い、蓮と咲の姿を目に留めた彼女はふわりと笑った。
「あ、土いじり…興味あります?」
「手伝いましょうか?」
「いいんですか?じゃあ…これ、あっちに運んでもらえると…」
名乗る間も無いまま、蓮は自分の鞄を咲へと預け、錆びが目立ち始めた台車へと手を掛けた。少女の案内で中庭の方へと運び込み、指示通り地面へと下ろす。
直面していた壁を乗り越えられた安堵か、そっと両手を合わせた春は、再び人懐っこい笑顔を通りがかりの少年に向けた。
「さすが男の子だね。ありがとう」
「いえ」
「ふたりとも二年でしょ?じゃあ、私の方がお姉さんだ」
彼女の口ぶりから察するに、奥村春は蓮たちの一つ年上――真と同じ高校三年生らしい。あらためて後輩たちの顔を見回した彼女は、そこできょとんと首を傾げた。
「あれ、どっかで会ったこと…」
もさっとした無造作な黒髪とウェリントン眼鏡が特徴的な少年に、絵画の中にあるようなオパールの瞳をした少女。そう遠くない記憶の中に、なんとなく覚えがある。そこで春はポンと手を叩き、大事な事を忘れていたと話を途中で切り替えた。
「そういえば、自己紹介してなかったよね。私…」

「奥村春さん、よね」

しかし、彼女が自ら口にするよりも先に、別の声がその名前を呼んだ。振り返った蓮と咲の間を割ってやってきたのは、この学校の生徒会長――新島真だった。

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