PERSONA5 the FAKE | ナノ


11

 翌日の放課後、秀尽高校に通う怪盗団メンバー五人は生徒会室に集まっていた。保管されている写真名簿が四冊だけだった為、竜司・杏・真が一冊ずつ、蓮と咲が一つをシェアする形で、それぞれが分厚い名簿を手に紙面と睨めっこしている。この組み分けに関しては、真が取り出した名簿をテキパキと配っていった杏の思惑が見えなくもない。「蓮は転校生だし、誰かと一緒のがいいっしょ?」なんて“それらしい”理由で、今日も雨宮蓮と芹澤咲は並んで座っていた。

「おっ!この子、美少女だぜ?スタイルも良さそうだし」
「竜司、真面目にやって」
「あ、咲だ。今よりちょっと幼く見える」
「え、どこどこ!?私も見たい!」
「入学してすぐに撮った写真だからね…って、もう、探すの違うでしょ?」
「お前らもマジメにやれっての」

 作業を始めてどれくらい経っただろうか。お目当ての顔が見つからない中、太陽がどんどんと傾き、生徒会室内の蛍光灯へと仕事をシフトさせていく。後輩たちの集中力の途切れを察した真が休憩を提案し、蓮たちは買ってきた飲み物で喉を潤した。

「そっちはどう?それらしい子、いた?」
「いや、サッパリだ」
「真先輩が見覚えあるってことは、やっぱり今の三年生の可能性が高いのかな」
「なんか、みんな同じ顔に見えてきた…」
「下校時刻まであと一時間弱ね。今日中になんとかしたい所だけれど…」

 比較的真面目に取り組んでいた蓮と咲だが、今のところ目ぼしい成果はない。二人の正面に座っている杏は、名簿に落とした目を数秒閉じて溜息を零した。その隣に座る真も流石に疲れてきたのか、パイプ椅子の背もたれに身体を預けて天を仰いだ。

「髪は短めだったよね。でも、今と変わってる可能性もあるかな…」
「咲みてーにメガネかけてたりしたら分かんねーぞ、もう」
「それ、私あまり知らないんだけど、そんなに違ったの?」
「咲って結構な近眼っしょ?度の強い眼鏡かけてるから目が小さく見えちゃうんだよね。それでかなり印象変わってたイメージ」
「そうだったんだ?自分じゃそこまで分かってなかったな」

 根気強く名簿に向き合っていた咲が杏の言葉に顔を上げ、つられるように蓮も視線を動かした。転校初日に見た芹澤咲の横顔と、今の彼女の横顔を脳内で見比べてどれくらい変わったかを考えた。彼にとってこのお節介なクラス委員はいつでも変わらず美しい存在であるのには違いないが、言われてみれば確かに初めて彼女の素顔を見たときにはそれなりに驚いたような記憶があった。

「なんかもう懐かしいな」
「本当?こっちのが見慣れちゃった?」
「そうかも」
「それだけ印象が違ったなら、わたしの取った方法は…ある意味では、上手くいってたんだね」
「ある意味では?」
「自分の身を守るためだけなら、ね」

 咲の言葉に何か冷罵的な含みがあるのを感じて、蓮はもう一度視線を隣へと動かした。咲は、あの春の午後と同じ顔で机に置かれた紙を捲っていた。隣にいる。すぐ傍だ。だけど何故だか酷く遠い気がしている。小指だけを固く繋ぎ合わせて、だけど残りは顔も体もすべて逆方向を見つめているような、数センチの距離が億光年の長さを持っているような違和感があった。それは、自分が敢えて踏み込むのを避けているかせいなのか、彼女の方が拒んでいるからなのか、今の蓮には分からなかった。

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