PERSONA5 the FAKE | ナノ



次に怪盗団の歩みを止めたのは、進んだ先の部屋にあった生体認証の扉だった。
システム音声が冷たく『登録者以外の立ち入り禁止』を言い渡し、先への侵入はあっさりと拒否された。現実側の認知を操作して扉を開けようにも、大企業のセキュリティをそう簡単に変えられる筈はなく、双葉のハッキング能力を以てしても苦戦するのは間違いない。
「今回は早々に足止めを食ったな…。どうする?」
「これは、モナだって先へは進めてないはずだよね?なら、パレスにいるとしてもここより手前にいるはずじゃ…」
祐介の問いに真が来た道の方へと目線を移す。ここに来るまで開けた一本道だったが、モルガナらしき影は見ていない。となれば、モルガナはパレス内にはいないという結論が導き出されるのだが、それを彼女が口にする前に、部屋の脇に固められていた荷物棚で影が動いた。

「お待ちなさい、あなたたち!」

そう、少女の声が凛と響き渡った。
振り返る怪盗団の注目を集めながら、荷物棚の上に人影がひとつ歩み出てくる。
姿を現したのは、ふわふわのボブヘアに洒落たウェスタンハットを乗せた、気品あふれる佇まいの少女だった。正体を隠すように、黒い仮面が白い肌の上に乗っている。
「あの服、まさか私たちと同じ…」
「黒い仮面!?まさか、斑目や金城が言い残した…!?」
異世界で好き勝手やっている奴がいる――数か月前に改心させた斑目一流斎と金城潤矢がこぞって口にした『悪党』の話だ。現実世界で何が起ころうがおかまいなしに暴れ回っているという、“黒い仮面”をつけた、強大な力を持つ正体不明の存在。
常識的に考えて、異世界に入ることのできる人間がそう多く存在するわけが無い。黒い仮面を持ち異世界に出入りできる人間がいたとすれば十中八九、斑目達が示した『犯人』だと考えていい筈だ。
「じゃあ、コイツが廃人化の…!?てか、女だったのかよ!?」
「俺たちを尾けてたのは、お前か!」
竜司と祐介が即座に身構え、蓮たちの目つきが驚きから警戒の色に変わるが、その先にいる少女は肯定も否定もせずに沈黙していた。
しかし、対陣の静寂も束の間、突如響いた聞き覚えのある声が、張り詰めた緊張の糸をプツリと切った。

「オマエら、勘違いもほどほどにしろよ!」

棚の上に立つ少女の横に小さな影が姿を見せる。柱に遮られた死角から現れたのは、他でも無い怪盗団の尋ね人――モルガナだった。尋ね“猫”と呼んだ方が正しいかもしれない。彼は怪盗団のメンバーを見回すと、再会を喜ぶ杏の声を突っ撥ねるように、鋭い目つきのまま腕を組んだ。
「オタカラを狙ってきたのなら、尻尾を巻いて帰ったほうがいい」
「いや、お前を捜しに来たんだが」
「なぜなら、オタカラはワガハイと、この…『美少女怪盗』がもらうからだ!」
祐介の冷静なツッコミは届いていないのか、モルガナが隣に立つ少女を見上げてピシャリと言い放つ。
「いいか!ペルソナだって使えんだからな!」
話の展開が色々と早すぎる。が、ぽかんとする怪盗団をよそにモルガナは話を続け、その横で少女は優雅な所作でひらりと頭を下げた。どうやら、たった二日の間にモルガナと彼女はタッグを組んだらしい。
「美少女怪盗と申します」
「自分で言っちゃったよ…」
「緊張感に欠けるな…」
杏と祐介を筆頭に、既に怪盗団メンバー全員がこの状況に首を傾げている。疑問があるというよりは、緊張が一気に解かれてしまい、大真面目に話を続けるモルガナたちとの温度差についていけていなかった。
「なんつーか…アイツ、安全なヤツっぽくね?」
「うん。モナが組んだ人なわけだし、わたしたちの敵ではないのかも…」
竜司と咲もすっかり拍子抜けしている。もう誰も警戒心や敵意は抱いていない。
そんな空気はもろともせず、モルガナと美少女怪盗は棚の上から飛び降りると、ピンと手足を伸ばして華麗にポーズを決めた。
「オタカラは私たちがいただきます!」
「そーだ!オマエらとお喋りしてるヒマはねえんだよ!」
少し皮肉めいた例えをするなら、自己主張を連呼し続ける街宣車のような勢いだ。此方側の話を聞く気は特に無いらしい。
そうして駆け出した二人が怪盗団の足止めされた扉の前に向かう。だが行く先は、生体認証が必要なセキュリティの重いゲートだ。いくらモルガナがパレスに精通していると言っても、準備なしに潜り抜けられるような代物ではない。
「やめとけよ、そこ開かね…」
竜司がそれを指摘しようとした刹那、上部の電子版が緑色で『OK』のサインを出したかと思うと、飾り気のない扉が滑らかに動いた。
「え、開いた…!?」
しかし、彼らがセキュリティをクリアした事に動揺したのも一瞬のこと。
「ちょ、敵!」
それ以上の出来事として、扉の向こうには大量のシャドウが待機していた。
「えっ…えっ!?」
「キョドってんじゃねえよ!逃げんだよ!」
今まともにぶち当たれば、態勢の整っていない此方側が苦戦を強いられるのは間違いない。突如現れた敵に驚きを隠せない少女に、モルガナが慌てて声を掛ける。
「後でいつもの場所に!」
真が張り上げた指示を皮切りに、蓮たちは互いに逃走を邪魔し合わないよう、バラバラに駆け出した。

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