4 散々擦られまくった尻がヒリヒリする。 問題の部位をさすりつつ、不格好な歩き方でやっとこさ我が家の敷居を跨いだ悟空は、「あいつちょっと張り切りすぎだろ、いつも素っ気ねえくせに」と件の戦友を非難した。 空はもう、すっかり茜色だ。 それでも台所から漂う香ばしい匂いに食欲を刺激され、腹が鳴る。 今夜の献立は何だろう。 あっさりと食事モードに切り替わった現金な脳が、体の痛みを瞬時に追い遣ってくれた。 悟空はわくわくしながらキッチンを覗き込む。 テーブルには大量の、それはそれは美味しそうなご馳走が並べられていた。 だが、肝心の作り手がいない。おや?と首を傾げつつ、出来たてほかほかな料理を摘み食いする悟空。 うん、うまい。 「チチぃ、どこだー?」 早く晩飯に有り付きたくて妻の名を呼ぶと、バタバタと騒がしい足音が聞こえて来た。 方向的に、自分の部屋からだった。 「チチ?どうした……」 「ご、ご、悟空さー!!大変だべ、泥棒が出ただよ!!」 髪を振り乱し、殆ど体当たりする勢いで夫に抱き付いたチチは酷く平静を失っていた。 ただならぬ彼女の様子と“泥棒”と言う単語にサッと顔色を変えた悟空は、急いで自室へと走る。 すると、目前へ広がる無惨にも荒らされた部屋。 覚えず茫然自失で立ち尽くしていると、いつの間にか隣にいたチチが険しい顔で告げた。 「は、犯人はきっと、お、男好きの変態に違いねえ!悟空さの服どころか下着まで盗んでったくせに、おらの服には目もくれてねえだ!」 「……チチ、ケガはねえか?」 「おらなら大丈夫だよ。だども悟空さ!悟空さは傷だらけでねえか!!」 「オ、オラのは……修業だ」 いきなり話を振られ、悟空は内心ひやりとする。 咄嗟に掌で鬱血した首根を庇い、単純至極な理由を繕いながら、悟空はばらまかれた衣服を持ち上げた。 「そんなら良いだが。近頃流行りの“すとーかあ”っちゅうヤツは、とんでもなくおっかねえんだと、おらニュースで聞いたべ。悟空さ、出掛ける時は充分背後さ気ぃつけてけれ!」 「いやあ、そこまで心配する必要はねえって」 初めこそ吃驚した物の、よくよく思考を巡らせれば心当たりがあった。 犯人は十中八九ベジータで間違いないだろう。 慌ててでもいたのか、靴の跡が床にくっきりと残っている。 極めつけは散らばった衣類などから微かに匂う、彼の体臭だ。それは、鼻の利く悟空にしか分からない程度だったが。 ただ、出来ることならもう少し丁寧に探して欲しかった。 これじゃあ泥棒に入られたと勘違いされても仕方ない、と悟空は乾いた笑いを漏らす。 その日以降、暫くの間は妻にストーカーの出現を警戒され、ろくすっぽ修業にも行けない状態が続いた。 息子達にもいらぬ心労を掛けさせてしまったが、事情が事情なだけに説明する訳にもいかない。 故に今回の失敗を深く反省し、ベジータに会う際は用件の有無に拘わらず、必ず着替えを持参するよう心懸ける悟空がいたと言う。 END |
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