※過去捏造・独白



ひたすらに雨が降ってザアザアと煩く耳を支配し、記憶を蘇らせようとする。それは温かいものを遮って暗いものだけを見せようとしているみたいで。
いつの間にか、自分は雨が苦手になっていることに気付いた。

(忘れられる…わけがない)
雨で思い出すのは、いつかの遊園地での出来事で、繋いでいた小さく温かな手を放してしまったことが全ての原因。俺に気付かせてくれた日でもあり、残酷な運命に逆らえるわけもないと思い知らされた日でもある。

希望という名の小さな手を放して、俺のたったひとつの希望は一人になり、俺自身も一人になった。
見つけた希望は泣いていて、ほっとしたと同時に在ったものが無くなることが辛いことなのだと再確認した。
俺は、ゆきを見失って焦っていて。ゆきは俺を見失って泣いていて。
幼かったこともあるけれど。失う形は違ったけれど。
確かに、離れたことを寂しいと、不安だと感じる心が互いにあった。自分が、彼女にとっていなくなると悲しくなる存在になっていたことを知って、嬉しいよりも先にきたのは悲しませたくないという気持ちだった。

(これ以上、近づいちゃいけない…)
縋るように抱きついてくる小さな体が、しゃくりあげて「いなくなったら嫌だ」と訴えてくる。
どうして出会ってしまったんだろうか。好かれることが後に彼女に悲しみを与えてしまうことになるのなら、俺は嫌われなくてはならない。
その日から、閉ざしたものがある。厳重に蓋をして、叫び出しそうになるのをぐっと堪えて、ただひたすら耐えた。
ゆきのためだと。
まだ幼い頃に気付けて良かったんだ、突然に態度が変わって、ゆきを困惑させることもない。
辛いも悲しいも愛しいも押し込めて、冷たい言葉のみを選んで吐いた。

なのに、距離は一向に離れることなく一定の距離を保ち、「瞬兄」と柔らかに呼ぶ声も向けられる笑顔も変わらない。
出会わなければ良かったんじゃないかと思うと同時に、出会わなければ、近くで見守っていなければ、守れないのもわかる。
自分の使命も、すべきこともわかっていても、なぜと問う心が邪魔をして凪いでいたものが揺らめく。
(もう…やめてくれ……)
親愛など向けなくていい、互いに辛くなるだけだから。
ただ傍に置いて守らせてくれるだけでいいから。

(これ以上…何も言わないでください……)
痛む心には、目を塞いで見ない振り。冷たい雨が体を濡らして、雨音が外界と己を遮断して何も見えないようにしてくれる。
ずぶ濡れになり、体を打つ雨が痛いくらいだったけれど、そこから動けないでいた。
どんどん低くなってきているであろう体温を気にすることなく空を仰ぎ見ても、激しい雨に視界を奪われてほとんど何も見えないままで。

当然のことながら、太陽は見えなかった。











110427
title:水葬
雨が凄くて、複雑な気持ちを隠すように雨の中に一人立ち竦む瞬兄がなぜか浮かんだ
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