※過去捏造




物心ついた時、龍神の神子とやらについて母と兄に聞かされた。おとぎ話のようなそれは、伝承じゃなくて実際にあったことだと、もしまた自分たちが仕えるべきその存在が現れたなら、なによりもその方を優先しなくてはならない。

私たちは星の一族なのだから、と。

(星の一族?なにそれ?)
最初の感想は、それ。
生まれでこの先の生き方が決まっているとか、仕えるべき方とか、そんな小難しいことはどうでもよかった。当時の幼かった自分に理解しろという方が間違っている、そう思う。
寧ろ、星の一族は神子に仕えるものなのだと、そう信じて疑わないことに何か言いようのない気味悪ささえ感じていたというのに。

そうしてボクはある日、夢を見ることになる。









砂ばかりの、見慣れた故郷の地を足をとられないように注意して歩く、自分。
(……?今、何か…)
カクリ、と何か違和感があった、と思い足元を見ると、そこには砂しかない。正しくは足の先からさらさらと砂が零れ、砂と足が同化し始めていた。
「な、なんだよ、なんなんだよ、これ……!!?」
驚愕に大きな声を上げ、さあっと顔から血の気が引いていっているのが自分でもわかる。
「なんだよ、何が起こってるっていうんだよ……!?」
言っている間にも、どんどん砂になっていく、自分の体。
「い、嫌だ…死にたくない…!死にたくないよ……!!!」

さらさらさらさら。
零れていく。

『星の一族の使命は、神子に仕えること』

こんな状況だというのに、以前言われた言葉が頭に浮かぶ。
「い、や…だ!嫌……だ!嫌だ!!!」
決められた運命も、消えていく自分も。

「う、うわぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

ガバッ、と布団から跳ね起きる。はあ、はあ、はあ、と荒い息が口から吐かれ、頭の中は真っ白だった。
全身を支配する、恐怖。
(なんだ、今の…。なんだって、いうんだよ…!)
だくだくと掻いている汗が徐々に冷えていって気持ちが悪い。生温いそれが、背をつう、とやけにゆっくりと滑っていく。
「祟…?」
隣に寝ていた兄が、薄暗闇の中でこちらを見ていた。
「どうか…したのか?」
「…な…でもない。なんでも…ないよ」
自分でさえ未だよくわかっていないものを人に伝えられるわけもなく。張り付いたように動かなかった唇で、それだけ言うのが精一杯だった。
なんでもないと言いつつも、そんな風には見えないであろう自分を、兄は何を思っているのかよくわからない瞳でじっと見つめる。
「…そうか」
ぽつりと、それだけ言うと再び布団を被って床についてしまった兄を、何も考えられない頭のまま見た。
(心臓の音が、うるさい…)
どくんどくんと煩く鳴る心臓は、先程見た夢の恐ろしさを物語っていた。
(こんなのは、夢なんだから…、)
気にするな、そう何度か言い聞かせてやっと呼吸が落ち着いた頃、自分ももう一度布団を被り直そうとして気付く。冷えた汗が冷たくて服が汗で肌に張り付いていて、このままではいけないと。
「…着替えよ」
布団から出ると、空気に晒されて余計に寒い。
こんな夢は早く忘れてしまおう、そう思いながらしゅるりと服に袖を通した後、ボクは今度こそ布団を被り直した。



もう見ないと思っていたそれを、繰り返し見ることになることも。この頃はまだ同じ部屋で寝ていた兄が、自分の叫び声で何度も起きることになるのは、また、別のお話なのだけれど。
そういえば、理由も知らずにいつも自分に起こされていた兄は、怒りもしなかったし、文句も言わなかったな・・と、故郷である合わせ世が生まれつつある世界で、思った。

「まあ、今はそんな些細なことはいいか。…ボクは消えないんだし」



(あどけない、幼い、と形容するのがふさわしい少年が灰色の世界で独り、微笑んでいた。)






110421
title:白々
幼少期→最後だけ現在。
瞬兄が何も言わなかったのは祟くんほどはっきりしたものじゃないけど自分も夢に見ていたから。
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