※過去捏造、ほぼ独白





物心ついた頃、初めて交わした『ヒト』との対話は、会話ですらなかった。
「…っひ…お、鬼…!」
姿を現すとそれだけでヒトは怯え、顔を恐怖に引きつらせる。
(それだけなら…良かったんだけど……)
体に出来た数々の傷跡が告げる、記憶。
記憶の糸を手繰り寄せる、なんて生易しいものじゃない。鮮明に蘇る、罵倒と嘲りと、殺意の込められた言葉たち。

「よ、寄るな!」
「この…化け物が…!」
「殺してやる!!!」

鬼も姿形はヒトと同じ。
違うのはその髪や瞳、肌の色。
大抵はヒトよりも色素が薄い。
より大きな違いは、その能力。

「だからと…言って…」
武力行使に出たわけでもない。ただ、自分たちと違うものとして存在を拒否された。今となっては、それが普通の反応だと半ば諦めるようにして自分を納得させていたけれど。
ある者は石を投げ、またある者は突然斬りかかってくる。そんな毎日が、己が死ぬまで繰り返される。
「…あんたたち鬼が、どうして人里にいるのよ!」
瞳いっぱいに涙を溜めた母親が、子を守るように抱きしめてキッと睨みつけてくる。
「わ、私は……」
「近寄らないで!」
弁解する暇もなく加害者になるのは、いつものこと。
何もしていなくとも、ただそこに在るだけで存在してはいけないものとみなされる。そうして自然と思うようになった。
何者にも、何に対しても執着してはいけないと。
関心を持てば、自ずからそれに近づくことになり、それは最終的に、近づいたことで別の何かと関わりを持つことになってしまう。
それは自分の身を危険に晒す。



幸か不幸か、私は執着心というものがなかった。何に対しても興味を持てなかったのだ。ヒトが言うところの綺麗や醜い、もよくわからなかった。
なのに。
「ゆきちゃん……」
出会ってしまった。初めて美しいと、そう思ってしまった。知りたい、そう思って色々なことを調べた。
遠くから眺めているだけのはずが、直接会ってその声を聞いて、彼女が自分に何かを話しかけてくれる度に想いは募り、憧憬を隠せなかった。

儚いと感じるような華奢な見た目に反して、意思の強いところ。異世界からやってきて鬼という存在を知らなかったとはいえ、鬼と知っても変わらぬ態度でいてくれたこと。
自分よりも他人の痛みに敏感な、優しい、優しすぎる少女。

「キミを知れば知るほど…キミを…好きになっていく……」

その存在全てが愛おしくて。何者からも守りたいだなんて感情を初めて知った。
「キミは…私に初めてばかりをくれる…」
「桜智さん?」
「ああ、今行くよ……」
この子の笑顔が見られるならどんなことでもしようと、そう決めた。
傍にいることを許してくれたキミに、心からの、感謝を。





(キミに出会えてよかった)






110404
過去と今と。まだ掴めていないのに衝動に任せて書いてしまった第三弾。次は桜智節炸裂させたい←
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -