「ゆき、こちらに」
見慣れた我が家で瞬兄が呼ぶのに合わせて、ちょこちょことそちらに向かっていってその隣に座りこんだ。座った瞬間にソファーがぽふりとその衝撃を受け止めて、隣から感じる温もりに頬を緩ませる。

「…違います」
「え?なに…が…」

一瞬浮いた体と違和感に、いったい何が起こったんだろうかとパチパチと瞬きを繰り返す。背中と太ももの辺りがあったかくて瞬兄の声がより近くなったような、嬉しい、違和感。
優しく回された腕に安心して力を抜いた後、身を任せるとふわりと香る自分以外の匂い。
「瞬兄…?」
首を回して背後の人物に問いかける。ふわりと微笑んで細くなった瞳と目があった。
「ゆきの定位置は、ここです」
「うん…」
幸せだなあと思う。
当たり前だった日々。一度は変わり果てた世界に嘆いたりもしたけれど。

「諦めないで、良かった」
「…なんのことですか?」

あの世界でのことを思い出して、ふふ、と小さく吐息を零す。返ってくる反応に、彼がここにいると再確認して私は満面の笑みを見せた。
「あの時、瞬兄のこと忘れたくない、ってそう思ったこと」
「ああ…」
きゅ、と背後から回されていた腕が、まるで拘束するみたいにして力を込める。それを拒む理由なんてなくて、同意の意味もこめてそっと手をその腕に重ねた。
とくり、とくり、と微かに伝わる心音が心地いい。
生きて、いる音。
傍にいると伝えてくれる全てのものが、愛しい。

「感謝してもしきれません。あなたが・・俺を諦めないでいてくれたこと。未来を、くれたこと」

トス、と前かがみになった瞬兄の髪がさらりと流れて視界に入る。

「私も…瞬兄が傍にいてくれて嬉しい。それに、前みたいに笑ってくれるようになった」
「それは……もう、理由がありませんから」
「うん」

流れる空気が穏やかで幸せで。ふいに泣き叫びだしてしまいそうな感情を、二人して持て余しそうになることがある。
そんな時は、互いの存在を確かめ合いたくて仕方がない。

「瞬兄」
「はい」
「大好き」
「俺もです。あなたにもらった時間は全て…あなたのために」

伝え合って、二人して窓に目をやるとそこには変わらない景色があった。









110403
title:馬鹿の生まれ変わり
瞬EDその後。まだ掴めていないのに衝動に任せて書いてしまった第二弾。
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