※格好いい大人はいない



「…ふう」
やっと終わったか、と手に持っていた資料をばさりとデスクの上に投げ捨てるように置いた。
(今何時だ…)
ちらりと腕にある時計に目をやればだいたい七時といったところで。
自分以外誰もいない職員室はシンと静まりかえっていて、時計が針を刻む無機質な音が聞こえるようだった。

「帰るか」
イスの背にかけていたスーツの上着を手に取り、車のキーをポケットから取り出すとちゃり、と金属音が廊下に響く。
(寒い、な)
肩にかけるようにして持っていたスーツの上着に袖を通すも、薄いシャツを擦りぬけて肌に当たる風は冷たい。こりゃあさっさと帰って温まるに限るな、と廊下を歩いていくとしばらくして車が視界に入り、ドアを開けるとその中に入り込んだ。
ピ、とエアコンの電源を入れると、温かい風が車内を循環していく。
「今夜は鍋にでもするか」
一人暮らしももう長い。
自炊なんてものはある程度出来ていて当たり前で。
それでも帰宅が遅いこともあり、手の込んだものを作るのも面倒でいつもこうして簡単に出来るものを選択してしまう。そんな風に考えてふ、と苦笑いが浮かんだ。
(帰れば飯を食って風呂に入るだけだしな・・)
部屋で寛ぐ自分を想像して、自然とアクセルを踏む足にも力が入ったような気がした。





「…あ?」
あれからしばらく車を走らせて、ようやく自宅の玄関に立った時だった。ポケットに入れていた携帯がブルブルと着信を告げる。
(なんだあ?…新八からじゃねえか)
訝しげに誰からだ、と届いたメールを見てみれば同僚からで。
『もう飯は済んじまったか?』
『いや、これからだ』
簡潔に用件のみが書かれた文面に目を通し、これまた簡潔に返事を書いて送り返す。
なんなんだ、そう思いながら携帯をパタリと閉じ、ドアを半分ほど開くと同時に少し離れたところから聞こえる、ガサガサというビニールの音。

「おーい、土方さん!」
「ああ?」
「飯、まだなんだろ?」

背後には、いつものジャージでスーパーの袋を片手に持ち、ニカリと歯を見せて笑う新八と、同じようにスーパーの袋を持ち、「いきなり悪いな」とほんの少し困ったように笑う原田の姿があった。

「まあ、明日は祝日で休みなんだし、たまにはパアーッと行こうぜ、パアーッと!」
「お前はただ酒が呑みてえだけじゃねえのか、新八」
「そう言うなって土方さん。あんたが呑めそうなのも買ってきてるからよ」
「…俺は呑めねえんじゃねえ、呑まないだけだ」

ほら、と手に持ったスーパーの袋を顔と同じ高さまで上げる原田に「袋に入ったままじゃあわかんねえよ」と、一気に体温を奪っていくような風が頬を掠める中、俺は薄く笑った。たまにはこんな日も悪くはねえか、と内心で呟く。
いつの間にか口角は上がっていて、がやがやと騒がしく会話を交わしながら、部屋のドアを閉めた。
(今夜は長くなりそうだ)







「うぃ〜…っく、ちくしょう、総司の野郎!なんだっていつもいつも俺のテストの時だけ白紙で出しやがんだ!?あれか!?俺を舐めてやがんのか!!?…ひっく、この前はこの前で俺のデスクから勝手にあれを持ち出しやがって…!鍵かけてんのにどうやって持ってってんだよ!」

「ひ、土方さん、ちょっと落ち着けよ…」
「これが落ち着いてられるかってんだ!」
「し、新八…」
「ぐお〜〜〜っ!むにゃむにゃ…」
「…ん?原田ぁ…お前全然呑んでねえじゃねえか…」
「い、いや、俺は…(目が完全に据わってやがる…!)」
「なんだあ…?俺の酒が呑めねえってのかあ!!?」
グイッ。
「!?いや、だから俺は…」
「…呑め」
グイッ。
「「……………」」
「「…ひ…っく」」
「一番!原田左之助!腹踊りいきます!」
「おう!やれやれ!」
「むにゃむにゃ…照れるじゃねえか…そんな褒めん、なよお…」






110317
title:にやり
三人の関係はこんな感じだといい。相手と状況によっては原田さんも苦労人。
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