「明けまして、おめでとう…っと、これでオッケー!」

はあ、さむ…なんて言いながら携帯の画面を確認して送信。送信先は勿論あの子。

「相当本気だよね、僕も」

いつもなら炬燵に蜜柑の寝正月。特に一緒に過ごしたい相手なんかいなかったし、なんで正月まで人ごみに塗れて押されて、そんな酷い目に遭わなきゃあいけないんだよ、なんてそんな考えの元、生きてきたものだからなんだかんだで付き合いの長い人たち、まあ主に平助や一君といった人たちに誘われでもしない限りは外に出ようともしていなかったのに。
「それがどうだろ。この元日の寒い朝に、一人道路を歩いております」
冗談っぽく、少し笑い交じりに言ってみた。正月の朝、家族で過ごしてるのかなんなのか、辺りに人はほとんどいない。たまにすれ違う人もさっさと僕の横を通り過ぎていく。
(あの人たちも、これから会う人がいるのかな)
その人に会うために、急いでるのかな、なんて僕らしくない考えに思わず声を上げて笑いそうになった。



「お、っと」

携帯の着信音が鳴り響く。
「なになに〜?」

『明けましておめでとうございます、沖田先輩。昨年中は大変お世話になりました。今年もよろしくお願いします』

「……ほんっと真面目なんだから」

先程送ったメールの返信内容に苦笑い。真面目で素直で可愛くて。そんな後輩の姿を思い浮かべてつい表情が柔らかくなっていくのが自分でもわかる。早く行かなくちゃ。
かつかつ、歩む速度に比例するようにブーツが音を立てる。吹いた冷風に瞳を細めながら首に巻いているマフラーを口元まで引き上げた。
「結構アプローチもかけてるんだけどな」
またまた苦笑い。どうやらあの子は僕を苦笑いさせるのが得意みたいだ。

「好きだって言っても本気にしてくれないし。構ってる女の子なんてあの子くらいなのに」

早く、早く気付いてほしい。僕のこと、好きになってほしい。僕のこの気持ちが本気だって気付いてほしい。
「…ありえない」
ははは、今度は声をあげて笑った。人がいなくてよかったよね、なんてさっきから独り言ばかりだ。
(それもこれも全部、君のせい)
こんな気持ちにさせて、ありえない言動ばかりで。そのくせその原因である気持ちは認めてくれないなんて。
「意外とSだったり…?」
そうこうしているうちに目的地が見えてくる。
(ああ、もう少し)
もう少しで顔が見れる。電子音じゃない声が聞ける。きっと驚いた顔を見せてくれる。
そんなことが嬉しくて仕方がなくて、早足は自然と駆け足に変わる。耳に当てた冷えた機械からはコール音。
(ねえ、早く)

「沖田、先輩?どうしたんですか?」
「あ、やっと出た。あのさ窓から外見てくれない?」
突然のお願いに「そと…ですか?」と戸惑った声。早く、早く。



「な、なんで…!?」
「驚いた?…一緒に初詣行こうよ」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってください!」

予想通りの驚いた顔が千鶴ちゃんの家の目の前にいる僕の目に映る。何も言わずに来たから驚いただろうな、と一人ほくそ笑んで。バタバタ、慌てた音が電話越しに聞こえる。

「え、っと!は、早くコート!あ、でも寒いから中に入ってもらった方が…!!?」

「電話切ってないから聞こえてるよ〜。あと、寒いは寒いけどさっきから外にいたんだし別にこれぐらい平気だからちょっと落ち着いて。それより、時間かかってもいいからあったかくして出てきて」

女の子に本心からこんな風に言えるなんてほんと本人も驚きだよ、と言いそうになるのを未だ繋がったままの携帯に、思うだけに留める。

「は、はい!で、でも出来るだけ急ぎますね!あと、一旦切ります!」
「はーい。ごゆっくりー」


「はあ…寒いなあ」
それでもそれは今の僕にとっては苦にならない。毎年毎年変わることのなかった、なんでこの時期、人が集まるとわかってるところに自ら行かなきゃいけないのか、なんて考えを根底からひっくり返して。たった一人のために行こうとしている。行きたいなんて思いまで芽生えている。
(君は僕に初めてばかりくれるね)



「お、お待たせしました!」
「ん。結局急いで準備しちゃったんだ。…まあ君はそういう子だよね」
はあはあと息を切らす彼女に小さく笑って。僕のために急いでくれてありがとう、とお礼をひとつ。
「さ、行こうか!」
「あの、手…!」

息が整うようにゆっくり行こうなんて思いながら踏み出した足。すぐ横からかけられる抗議の声は無視して。
「寒いから。いいでしょ?」
「う、っ…」
待たせている間に冷えたんだろうかとか多分そんな風に思ってるんだろう、何も言えなくなった千鶴ちゃんに満足げに笑って。
「勝手に待ってただけだし、急に来たんだから君が気にすることない。でも…寒いものは寒いの!」
言って千鶴ちゃんの手を引く僕は上機嫌。困惑気味についてくる千鶴ちゃん。
まあそれも最初だけで、話してるうちに笑ってくれたことに少し安堵して。僕は今年最初の告白をすることを決めた。
「覚悟しててよね」
「…?先輩、今何かおっしゃいましたか?」
「うん?まあそのうちわかるよ」
「はあ…」












120101:明けましておめでとう!
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