「さむ…」

年末は騒々しかったなあ…なんて思いながらの元旦当日。ベッドから体半分だけ起こしてぼんやりとそんなことを考えていた。お決まりの、いつものメンバー。がやがやと騒がしくしてどんちゃん騒ぎ。酒が入った大人の騒々しいこと。
「あの人も今回は珍しく呑んでたしね」
ぷっ、と思い出して小さく噴き出す。
「ほんと…自分がお酒に弱いのわかっててなんで呑んだんだか」
その時の空気というか、そんなものに流されたんだろうか。
見知った顔ぶれ。痴態を晒しても今更気にするものでもない。それ以上に自分以外のメンバーの方が酷い。

「まあ普通ならそう考えてもおかしくないけど…あの人だからなあ……。…………って!」

なんで年明け早々、あの人のことなんて考えなきゃいけないの、なんてわずかに顔を歪めた。なんだか少々おかしなことを考えてしまったせいで、ぼーっとしていた視界もいつの間にかクリアになっている。
「そろそろ起きようか」
寝正月、なんてものも悪くはないけれど。言いながらベッドから降りて床に素足を晒すと、途端に冷えた空気と床に襲われて先程まであった温もりが急速に奪われていく。寒い寒いと自分を自らで抱きしめる形になりながら、部屋の入口に置いてあったスリッパを履いた。これで幾分かはマシになるだろう。
それでも体の周りにまとわりつくようにある冷えた空気が堪えるのは変わらない。今度は温かい飲み物を求めて部屋を出た。まるでそれしか言えないみたいに「寒い寒い」と連呼していたら廊下ですれ違った姉に「寒いのはみんな一緒なんだからあんまり寒いばかり言うな」と睨まれてしまったし。

(なに、正月から厄日か何か?)
朝からあの人―学校で嫌でも顔を合わせる教頭と、仲間うちで集まる、なんて言われて集まったそこでも顔を突き合わせたし、起きて最初に考えてしまったのもあの人だ。なんて口の中でぶつぶつと言って、苦い顔になりながらコーヒーをマグカップに注いだ。(考えたのは総司であって土方教頭に非はないし、重ねて言うがそもそも居合わせたからと言って彼に非はまったくない)
先に起きた家族の誰かが用意したのであろうコーヒーメーカーの中に入ったそれは、ほわほわと湯気を立てていて温かい。
「はあー……。生き返った」
体の中を満たす温度にほう、と息を吐いて、さっきからの(自分にとっての)嫌なことは忘れてしまおう、と今度は別のことを考える。



(そういえば)
彼女は今何をしているだろうかと、ふと思った。
真面目な彼女のことだ、いくら正月といえども自分のようにこんな時間まで夢の中、ということはないだろうと、もうすぐ十一時を指そうとしている時計をちろり、流し見た。
「あ。千鶴ちゃんといえば」
去年の十二月半ばだっただろうか。年賀状を送りたいからよければ住所を教えてもらえないかと言われたことを思いだして、自然と足は玄関先へと向かっていく。
(マメというかなんというか……。まあ、良い子だよね)
進める足は止めないまま、最近では面倒だからとメールで済ます人間も少なくないのに、と自分がまさにその人間の一人であることを思いながら、それでもなんとなく今年は書いてみようかななんて思ったそのきっかけを作ってくれたその相手、いつも笑みを絶やさない後輩の顔を思い出した。
先程までの陰鬱な気分が晴れるような心もちでふ、と僕も笑みを零す。手にあるマグカップの中のコーヒーが、振動によって揺れて今にも零れそうになるけれどそんなヘマはしない。ぐんぐん、ぐんぐんと歩くスピードを速めていく。

(年賀状を確認したら、メールしてみようかな)
いや、急にかけて驚く声を聞くのもいいな、やっぱり電話がいいかな、なんて。
そんな風に考えてたら段々と楽しくなってきて。
「はは」
自分がそんな考えを持つなんて思いもしなかったなあ、声と同時に家のドアノブに手をかけた。寝起きで部屋着のままだが、別段気にすることもないままドアを開けると風と空気に晒されたけれど不思議と今は気にならない。
「え…っと」
がさごそと束になっているそれに手を伸ばして、お目当ての自分宛てのものを探す。
(あった)
元旦に届くように早めに出されたのであろうそのハガキに、ついつい頬が緩む。

「なんだかなあ…」

なんだか狡い、こんな気持ちにされるなんて、とドアに再び手をかけようと、して。
「あ、あのっ!」
「え?」
聞き慣れた声がした、気がした。



「千鶴ちゃん!?どうしたの?」

「元旦早々にすみません……!も、もしよかったら、なんですけど、一緒に初詣に行きませんかっ!?」

突然の訪問者と告げられた内容のふたつに、驚きでぽかん、としばし答えることも忘れて口を開いた。
「あ、の…」
遠慮がちに、恥ずかしいのか顔を真っ赤にした千鶴ちゃんに声をかけられてハッとする。
「今、来たの?」
「え」
「鼻、赤いよ」
言われて声をあげて鼻を隠すその手に手袋がはめられていたことに少し安堵して。
「ちょっと…待ってて」
何も考えないで衝動のままに出した声は意図していなかったせいかぼそりと、呟くようなものになってしまって。それが聞こえなかったんだろう、目の前で困惑した彼女の瞳が揺れる。

「や、やっぱりご迷惑でしたよね……」
「…誰もそんなこと言ってないでしょ!用意してくるから、ちょっと待ってて!」

それまでこれでも飲んでて、なんて飲みかけのコーヒーを手渡して「あのっ!」なんて後ろからかかる声に反応する暇とか、いくら急いで準備するからって家の中に入っててもらえばよかったんじゃないか、それで新しく注いだコーヒーを渡せばよかったんじゃないか、なんてそんな考えは、今はなくて。
大慌てで廊下を駆ける僕に、また姉さんの辛辣な言葉が浴びせられる。二回目だからかさっきよりきつい。
「ごめん!急いでるから!」
ばたばたと大きな音を鳴らす僕を千鶴ちゃんがどう思ったかなんて僕にはわからないし、なんだなんだと不審に思った姉さんが、開けたままのドアの先にいた千鶴ちゃんに声をかけて中に上がってもらっていたなんて、知る由もなかった。

(前言撤回!)












120101:明けましておめでとう!
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