誰もいなくなった放課後の教室で、私は友だちとお菓子を食べながら他愛もない話をしていた。
数学の田島先生と化学の三林先生は犬猿の仲なんじゃないかという話から昨日見つけた可愛い雑貨屋さんの話まで話題は様々。
隣のクラスの美人なあの子は違う高校の子と付き合ってるらしいという話をしていると、スナック菓子をつまみながら友人はふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、さっきジュース買いに行ったときに見たんだけど、佐久間くん告白されてた」
「え?!」
どうしてそれを早く言わないの!!
私の好きな人である佐久間くんが誰かに告白されてるなんて、今朝見かけた面白い人の話なんかよりも先に話すべき事柄なんじゃないのかな?!
「相手の顔までは見えなかったけど、可愛い感じの子だったなー」
「そっそれでけけ結果はどどどどどうだったの?!」
「知らない。声が聞こえるほど近くにいたわけじゃないんだから」
「くぅ…」
佐久間次郎くん、17歳、独身。
1年生のときに同じクラスになって、いつの間にか好きになっていた。
きっかけとかは、多分ないと思う。
自然と目で追うようになって、放課後はサッカー部をこっそり覗きにいくようになった。
グラウンドで走り回る佐久間くんはとても楽しそうでいきいきしていて、見てるだけの私まですごく嬉しくなったのを覚えている。
日直や委員会も一緒になったことがない上、事務的なこと以外で喋ったことは一度もない。
なんで、どこがどう好きなのかと聞かれると返答に困るのだけど、とにかく大好きなんだ。
「今回も行動は起こさないの?」
「………」
「1年のときから名前の佐久間話は聞かせてもらってるけど、そろそろ何かアクション起こしてもいいんじゃない?」
「…だって、接点ないし…」
「だからってこのままでいたら、いつか誰かにとられるかもしれないよ」
「んんんん〜」
「佐久間くんが誰かのものになってもいいの?」
「っよくない!!」
ガタッと勢いよく座っていた椅子から立ち上がったせいで椅子が倒れた。
その衝撃音に少しびっくりしつつも私は自分に言い聞かせるように思いのたけを声にした。
「他の人となんか付き合ってほしくない!私も……私だって、佐久間くん好きだもん!誰にも負けないくらい、大好きだもん!」
「えっ!?」
大きな声をだしたおかげで少しすっきりした気分に浸っていたのもつかの間。
ふと私の耳に聞きなれているような、聞きなれていないような声が教室の隅から聞こえてきた。
チョコを頬張りながら、なぜかにやけている友人を視野にいれつつ顔をそちらに向けるとなんとそこにご本人の佐久間くんがいた。
「っ!!!!!」
想像もしてなかった佐久間くんの登場に、声にならない私の叫びが発せられたのはいうまでもない。
赤裸々な思いが
「佐久間くんじゃん」
「げ、なんでお前がここに…」
「ジュース買いにきたの。なに、佐久間くんの大好きな名前ちゃんのご友人様に対してそんな態度でいいと思ってるの?」
「…もしかして今のみてた、か?」
「佐久間くんが可愛い女の子に告白されている場面ならばっちり見たけどそれ以外は見てないよ」
「〜っ苗字に余計なこと言うなよ、頼むから」
「え〜、どうしよっかな〜?」
「(このやろう…!)」
「…じゃぁ今からちょっとついてきて」
「は?どこに」
「教室。ついてくればきっといいことあるよ」
「いや、俺まだ部活あるから」
「いま私、名前と教室でガールズトークしてるの。だから名前ちゃんのあんなことやこんなこと聞けると思うんだけど…部活ならしょうがないか」
「…いや……やっぱり、行く」
「(ちょろい)そ、じゃ行こ。佐久間くんは教室の外にいてね。いきなり佐久間くんきたら1年のとき同じクラスだったとはいえ、名前びっくりすると思うし」
「分かってる」
いつまでたっても行動を起こさないせいで相思相愛だということに気付かない2人のために一肌脱いだ、このお菓子好きな友人のおかげで名前と佐久間がようやく互いの気持ちに気付くのだった。
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