あと数分で昼休みが終わり、5時間目が始まるというころ。
次の授業の準備をしている俺の髪を触りながら名前が呟いた。
「風丸、髪伸びたねー」
そう言いながら梳かすように括ってある髪を撫でる。
これは今に始まったことではなく、ずいぶん前からの名前の癖だ。
家が隣同士で、いわゆる「幼馴染」という関係の俺たちは幼いころから一緒にいた。
幼稚園も小学校も一緒、遊ぶときも一緒、何をするにも一緒。
それが原因なのかは分からないけど、気付いたときには名前にこの癖がついていた。
名前曰く「触らずにはいられない」らしいけど、俺が名前の前の座席になってからは毎日必ず触られるようになった。
とくに不愉快というわけではない。
むしろ、
「(名前のこと好きだから、嬉しいんだけどな)」
「小さいころから綺麗な髪だとは思ってたけど、伸びてもその艶やかさは失われないね!」
「そうか?」
「うん。でも運動部なんだし、邪魔になったりしない?」
「結んでるから大丈夫。…名前は切った方がいいと思うか?」
「いや全然!むしろこのままが望ましいです!なんてったって、私の癒しだからね」
「あはは、癒しって」
「でもほんとに疑問!なんで伸ばしてるの?」
名前は「なんでなんでー」と楽しそうに言いながら俺の髪に触る。
確かに、運動部に入ってるなら髪は短い方が何かと楽だろう。
でも陸上部にいたときも、サッカー部にいる今も、髪を切ろうと思ったことは一度もない。
理由は簡単、名前の「癒し」を奪うことはしたくないからだ。
それに、髪を伸ばしてれば、名前が触れてくれるだろ?
触れてる間は、俺のそばにいてくれるだろ?
「うーん、ひみつ」
すべては君のため
というのは建前で、本当は、俺のため。
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