季節は、たぶん秋。夏の暑さも残暑も通り過ぎて、ワイシャツ1枚じゃ少し肌寒くなってきた。


「明日からカーディガン着てこーっと」


立海大には学校指定のカーディガンかまたはセーターがあったのかもしれないけど、関係ない。
私は1年生のときから愛用している灰色のカーディガンを探していた。
あっちのタンスにはなかった。こっちのクローゼットにもなかった。もしかしたら、向こうの押し入れ?
家の中を引っ掻きまわしてカーディガンを探しているのに、見つからない。


「おかーさーん。私のカーディガン知らないー?灰色のー」

「あぁ、それ捨てたんじゃなかったっけ?あんたがどっかに裾引っかけてびりびりになったとかで…」

「あー!そうだったかもしんない…。えー明日どうしよー」


一度着ていくことを決めてしまった私の心は、ワイシャツで登校するという行為を嫌がる。
だって寒いし。もう着てくって決めちゃったし。
ぐちぐち部屋で呟いていたらケータイが鳴った。これは電話の着信音。
表示された発信者を見ると、「仁王雅治」の文字。


「どうしたの、仁王」

「いや別に用はないんじゃけど」

「そっか。ていうか聞いてよ仁王くーん」

「どうしたんじゃ」


私は仁王に事の経緯を話した。私がどれだけ意気消沈したかということを中心に。
すると仁王はそんなことかというニュアンスを含んで言葉を発した。


「ほんなら俺のカーディガン着るけ?」

「え、仁王の?いいの?」

「俺のお古になってしまうんじゃけど、それでもええなら名前にやる」

「ほんと?やったー!」

「でもちょっと大きいかもなぁ」

「仁王、自分よりすこし大きめの着てるもんね」

「だぼだぼの方が俺かわいく見えるじゃろ?」

「わー雅治くん気持ち悪いこと言ってるーやだーありえなーい」

「やってほんとのことじゃもん。俺かわいいもん」

「…可愛いのはわかったから、そのおふざけもうやめて。自分の彼氏がかわいこぶりっこしてて虚しくなる」

「そんなとこも好きなくせに。名前ちゃんは天の邪鬼やのう」

「天の邪鬼じゃないですぅ。素直な子ですぅ。じゃぁ明日仁王の教室行くね」

「いやええよ。今からもってく」

「えーそんなの悪いよ。時間も遅いし」

「名前さっき寒いのに登校するのやだって言うとったやろ。学校来てからカーデ着るんじゃあんま意味ないじゃろ」

「そうだけどー…じゃぁ私が仁王ん家いくよ!」

「あほ。可愛い彼女を寒い中来させるやつがおるか」

「ちょ、ちょちょちょちょ!やめてよ!不覚にもときめいちゃったじゃんか!」

「かっこええじゃろ?」

「可愛いんじゃなかったっけ?」

「可愛いのは名前で十分じゃ。とにかく今から行くから、待っとって」

「うん、ごめんね」

「何言っちょる。名前に会うきっかけができたんじゃき、気にすることなかよ。じゃぁまたあとでな」


そう仁王が言って電話を切った。
カーディガンの話してたのに、恋人っぽい電話になっちゃった…とにやけてしまう。
仁王、かっこいいな!ばか!


「早く来ないかなー!」










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