「恋の、冒険…」
読んでいた恋愛小説の一節に書いてあったその言葉をなんとなく口にした。
それを傍らにいたリョーマがいきなり何なのと言いたげな顔で私を見る。
「この本にそう書いてあったの」
「ふぅん」
興味なさそうに返事をしたリョーマはテニス雑誌に視線を戻した。
そんな顔向けときながら興味なしですか。
でもリョーマには似合わない言葉かも…ってのは失礼か。
リョーマには「恋の冒険」よりももっと、こう…「愛の探究」とかが似合う気がする。
探究の意味はよく知らないけど。
「名前は恋の冒険がしたいの?」
「へ?」
リョーマに似合う言葉を考えているときにそんなことを言うから間抜けな声が出てしまった。
案外、興味あったのかな。
「そりゃしたいよ。花も恥じらう女子中学生ですから!」
「花も恥じらうって…自分で言うこと?」
少しばかにしたようににやりと笑うリョーマ。
朋ちゃんがいたら大騒ぎしそうだなぁ。
女の子の間で王子様と呼ばれてるリョーマ。
そんな人の隣で本を読んでるのって、他の子からしたら羨ましいと思われることなのかな。
私は幼馴染だから全然なんとも思わないけど。
「名前が恋、ねぇ…相手なんかいないくせに」
「…いつかできるよ」
「ただの願望じゃん」
「…先のことは誰にも分からないからしょうがないでしょ」
「未来じゃなくって今のことなら良かった?」
「まぁねぇ…憧れるし」
私にいつか訪れるであろう恋愛を思い描いているとリョーマが私に近寄ってきた。
さっきまで読んでたテニス雑誌は机の上にぽいっと捨てられてる。
「じゃぁ今すぐ、俺と、恋の冒険始めようか」
「、は?」
「俺は結構前から冒険する準備は整ってたんだけど」
放たれた言葉を理解できていない私に構うことなくリョーマは私の頬に唇をくっつけた。
…え、私、リョーマに、ほっぺにキス、された?
アバンチュール
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