拉致およびセクハラじみた勧誘に失敗した跡部は、レギュラーにこれを報告するため昼休みに部室へ向かう…はずだった。


プルルルル…



「俺だ」

「ウス」

「放課後、苗字名前の元に向かえ。クラスは3−3だ」

「ウス」



用件だけ樺地に伝えると跡部はすぐさま電話を切り、生徒会室へ向かった。

向日と芥川に会うのを避けるためだ。

今、その2人に会うと勧誘の失敗のことを非難されるに違いないと予想がつくからだ。

跡部にとってそれは1番面倒なことだった。

だが放課後には部活に行くのだから、結局会うことになり、これは無駄な行為だとも言える。

それを分かっていながらも生徒会室に進む自分に無意識に溜息をつく。



「憂いをおびた跡部様もステキ…!」

「溜息をつく格好も様になるわぁ…!」



陰でこんなことを囁かれているのにすら気付かなかった。







「私は大丈夫だから心は部活に行きなさい!」

「だめよ!またあのエロほくろと眼鏡関西が来たらどうするの?!」

「(ちょっと変な略し方だよ!)もうすぐ部活が始まる時間じゃないの?!」

「途中まで送る!残念なことに部活があるから家までは行けない!だからせめて校門まで…!」

「部活にちゃんと出たら、私も言うこと聞いてあげるよ!」

「……その手には乗らないわ!」

「けど本当…部活行かなきゃだよ?サッカー部の人たち、マネージャーいないと困るでしょ?」

「そ…そうだけど…」

「なら行かなきゃ。跡部と忍足だって部活行ってるって。遊んでる場合じゃないんだし」

「……分かった。部活に行くわ。けど!用心して帰るのよ!?良い?分かった?」

「分かったよ!ほら、間に合わなくなっちゃうよ?走って!走るんだ!サッカー部敏腕マネージャー!」

「任せて!じゃぁね!」



そう言って心は廊下を猛スピードで走って行った。



「結構時間経ったなー…」



終礼が終わってからずっと心とさっきの言い争いっぽいことをしていた。

彼女の優しさはすごく嬉しいけど、ちゃんと部活に出てほしかったから私も負けじと自分の意見を主張した。

心が折れてくれて良かったよ…。



「けどほんとに優しいな、心」



よし、さくっと帰りましょう!

階段を下りているそのとき、誰かに肩を叩かれた。



「苗字さん」

「っはい?!あ、樺地くん。何か……用事?」

「ウス」



樺地くんの表情は心なしか暗いように見えた。

跡部に行けって言われたんだ…。



「ごめんね、私のせいで部活の時間が…」

「そんなこと、ないです」



少し焦ったようにそう言う樺地くん。

すごく優しい子だなぁ…!



「樺地くんの言いたいこと分かってるから…」

「……」

「あの…」

「?」

「樺地くんは私にマネージャーしてほしい…?」

「してほしい、です」

「どうして…?」

「…ちゃんと、お礼を言える人、だから…です」



声が小さくて理由は聞き取れなかった。

恥ずかしかったのかな。

けど、樺地くんに言われて、決心ついたよ。



「樺地くん、本当に私でいいの?」

「苗字さんが良いです」

「(きゅん)よし!樺地くんがそう言ってくれるなら私、マネージャー引き受ける!」

「ありがとうございます」

「ううん。こちらこそ、私でいいって言ってくれてありがとう!期待を裏切らないように頑張るね!」



そう言って和んだものの、この後どうすればいいんだろ。

その場から動こうとしない樺地くんを見る限り、その後の指示は跡部から聞いてないのかもしれない。



「と、とりあえず部室行こうか?」

「ウス…すみません」

「謝らないでいいんだよ!先輩たちが悪いんだから!」





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