「ねぇねぇ、名前ちゃんっ!」

自転車を飛ばしながら帰っていると、後ろからかかる男の声。


名前ちゃん、って私のこと?

私のことを呼んでるの?

私に男の知り合いなんていたかな…。

せいぜい学校の教師くらいだよ。


なんてとくに声の持ち主なんて気にもせず自転車を止めて振り返ってみる。



「名前ちゃん?聞こえてるー?」

「(はいはい…聞こえてるってば)だれ…ええええええええええええええええ?!」

「?!」



何これ、幻覚?幻聴?

白昼夢でもみてるの?


振り返れば、明るいオレンジ色の髪をもち、白い学ランを着た男の子。

それを見た私の頭に浮かぶのは、千石清純という名前。

この世に「二次元の人間」として存在する人間で、私が大好きな漫画「テニスの王子様」に登場するキャラクターだ。



「(え?何?これ何?夢?妄想の産物?友達からのサプライズプレゼント?)」

「えっと、名前ちゃん…?ダイジョウブ…?」

「(ってどうやって二次元のキャラを連れてくるの!ってことは…映像?)」

「やっぱし…聞いてない?」

「(ちゃんと鳥海さんボイスだったし…ラジプリの企画?)」

「……はぁ」



私が放心していたせいか、ため息をつく千石清純。(仮)(信じられないので仮としとく)

わ、悪い事しちゃったかな…?



「…す、すみません」

「あはは、全然イイよ!そうゆうところも名前ちゃんらしくて好き!」

「え!?」



なんだ、この千石清純。(仮)

まるで前から私のことを知ってたような言い方。

ってそんなことより!



「あ、の…」

「うん?なーに?」

「千石清純さん…ですか?」

「うん!そだよー」

「…」



信じられない。

確かめるために千石清純(仮)の肩に手を触れてみる。



「(…しっかり感触あるよねぇ…)」

「え!なになに!」

「ほんとに、千石清純ですか?」

「だからぁ、ホンモノだってばー!」



声も顔も、アニメや漫画で馴染みのあるものだった。

嘘?本当?偽者?本物?

…信じたい、けど信じられるわけがない。

だって、彼は三次元の人じゃないんだもん。



「うん、そうだよね。信じられるわけないよねぇ…」

「え?!あ、いや、信じたいですけど…!」

「あはは!そんな必死にならなくて大丈夫だよ」



そう言って彼は声のトーンを少し落として喋り始めた。



「俺はこことは違う世界から来た」

「名前ちゃんがよく知ってる世界から」

「…分かる?」



私は頷く。



「…テニスの…王子様…?」

「うん、そう。それ」



優しく笑いながら頷く千石清純。





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