「おはよう、鳳くん」

「おはよう苗字さん。今日の日直、俺と苗字さんだよね?」

「うん。日誌、取りに行っといたよ」

「ぁ、ごめんね。ありがとう」





今日は2月14日。

意中の人にチョコを贈る、女の子にとって特別な日。

それは私も例外じゃなくて、今日という日を心待ちに………緊張しながら待っていた。

だけど私の場合、2月14日のイベントはバレンタインデーだけじゃない。

私の好きな人である鳳くんの、誕生日。





「どうしよう友人の名前ちゃん…私、もうだめ」

「何言ってんの。一日が始まったばっかりだよ?!それに、まだ何もしてないんだからそんなこと言ってちゃ、実るものも実らなくなっちゃうよ?」





朝の休み時間。

私は友人の名前に呟いていた。





「私さ、朝さ、頑張って鳳くんに挨拶したらさ、ちゃんとおはようって返してくれてさ、すっごいドキドキした……私と日直ってことも覚えててくれたんだよ!」

「良かったじゃん!2月14日に一緒に日直できるなんてラッキーは中々ないんだから、頑張りなよ」

「うん……………けど、」

「応援してるから、ね?」

「……………………………がんばる」





日直の仕事は黒板を消すこととか日誌を書くこと。

とくに分担を決めたわけでもなかったから私は1時間目と2時間目の間の休み時間に黒板を消していた。





「(筆圧強いなぁ…しかもあの先生上の方ばっかに書きすぎ…届かないじゃん!)」





つま先立ちをして、手をめいっぱい伸ばしながら消していると





「苗字さん」

「(っひ!お、鳳くん?!)なに?」

「黒板消すのは俺がやるから、苗字さんは日誌書いてもらえる?」

「え?なんで?」

「いいから。日誌、頼んだよ」





鳳くんは微笑んで私にそう言った。

私は言われるがまま自分の席に戻って日誌を書き始めた。

すると次は友人の名前がにやつきながらやって来た。





「鳳やるね。紳士だね」

「ん?どういうこと…?」

「え、何。分かってなかったの?鳳は名前が大変そうに背伸びして黒板消してたから代わってくれたんだよ」





友人の名前にそう言われて思わず赤面してしまった。

ま、さか!まさかまさかまさかまさか!

そんな…わけ……………………………どうしよう、なんかよく分かんないけど、恥ずかしい……!





「鳳くん、優しい…!」


「(べた惚れ…)」





あとの休み時間はすごかった。

授業終了のチャイムが鳴ると同時に、鳳くんにチョコや誕生日プレゼントを渡す女の子たちが絶えることなく教室に出入りしていた。

その波に驚いて避難し損ねた鳳くんは苦笑いしながらそれを受け取っていた。

というより、勝手に手に持たされていたり机に置いていかれたりしていた。

……私が渡しても苦笑いされちゃうのかな…怖いな…。







放課後。

生徒たちは部活や家へと急ぎ、教室に残っているのは日直である私と鳳くんだけになった。

最後に教室内を点検するという日直の仕事があるからだ。

この2人きりになれるチャンスがあるからこの日の日直になれたことを喜んだんだけど………。

やっぱり、私には無理っぽい…。





「異常なし、と…」

「これで日直の仕事終わりだよね」

「うん。私が日誌提出しとくから鳳くんは部活行って良いよ。お疲れ様。部活頑張ってね」





チョコもプレゼントも渡すのは無理だと思ったからせめて、と思ってそう言った。

ずっとずっとこの日のために色々考えて準備してきたけど、怖くて、できそうにないや…。

鳳くん宛のものが入ったカバンを抱いて私は教室のドアに手をかけた。





「あの、苗字さん!」





少し大声で呼ばれたから肩が震えた。

振り返ると鳳くんが頬を赤くして私を見ている。





「…なに?」

「苗字さんは知らないかもしれない、けど…今日は、俺の誕生日なんだ」

「………………………知ってるよ」

「え?!そ、そうだったんだ…それで、さ……苗字さんにおめでとうって、言って、ほしくて…」





え、ちょっと、まって。

だれか、いまなにがおきてるのかおしえて。

私、今、鳳くんになんて言われた?

状況を飲み込めない私は完全に思考が停止した。

何も考えられない。

ただ心臓の音がうるさいだけ。

どうしようどうしようどうしようどすればいいんだろう。





「ぉ、鳳くん…」

「っはい」

「あの…えっと…ぉ、お誕生日おめでとう、ございます!こ、れ…あの…プレゼント…とチョコ、です」





言いながら慌ててカバンからプレゼントとチョコを取り出し、差し出した。

私の手、震えてる…。





「もしかして………用意してくれてた…?」

「…うん…」

「ありがとう!すっごく嬉しいよ!」





鳳くんはあの女の子たちに見せた苦笑いじゃなく、笑顔で受け取ってくれた。





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