僕には好きな子がいる。
同じ学年、同じクラス、隣の席の

「苗字さん、おはよう」

「おはよう吹雪くん」

僕の一日は大好きな苗字さんとの挨拶から始まる。
にっこりと可愛い笑顔を僕に向けたあとスクールカバンを机の脇に掛け、椅子を静かに引き、スカートを払って座る。
なんでもない一連の動作なのにとても綺麗にみえて不覚にも目が釘付け。
なんだか悔しいなぁと思いつつ会話を続ける。

「昨日、苗字さんが好きだって言ってたドラマやってたね」

「そうなの!吹雪くんも見た?」

「うん、もちろん。苗字さんが教えてくれたんだから」

彼女が今はまっているドラマは学生の恋愛模様を描いたありがちな話。
とある男子生徒に密かに恋をしているヒロイン。でも実は想われている男子生徒もヒロインのことが好き、といったものだ。
見応えがないわけではないけれど、苗字さんはこのヒロインと自身とを重ねて見ているのかなと思うと中々楽しめた。

何を隠そう苗字さんは絶賛片思い中なのだ、僕に。
僕が気付いていることなどもちろん彼女は知らない。
苗字さんの様子を見ている限りでは、恐らく友達にもその恋心は隠しているようだった。
誰にも秘密の彼女の恋。
ならなぜ僕が気付いたかというと、簡単だ、僕も苗字さんが好きだから。
授業中は黒板を見るふりをして隣をこっそり見たり、休み時間は彼女の姿を追ったりしていると、よく目が合う。
部活中、視線を感じる気がしてそれをこっそり気付かれないように目だけで辿れば苗字さんがいる。
クラスメートの男子とは必要な業務連絡以外で話しているところは見たことがない。
けれど僕にはわりと話を切りだしてくれる。件のドラマもそうだ。
僕が他の女の子に話しかけられていると、彼女は友達と話しながらもちらちらとこちらの様子を覗っている。
僕が笑いかけると頬を少し赤らめて、とても嬉しそうな笑顔になる。
ふざけて名前ちゃん、なんて呼んだときはかわいそうなくらい顔を真っ赤にして涙目でわたわた慌ててた。
隣の席でちょっと仲良くなったからと言えばそれまでかもしれない。自意識過剰と言われればそうなのかもしれない。
でも僕は苗字さんのことがとても好きだから、そう思いたい。
それに、大好きな彼女の気持ちを読み違えるはずがないんだ。

「ヒロインが恋を諦めちゃいそうでハラハラしっぱなしだったよ」

「どうなっちゃうんだろうね」

昨日放送された内容は、男子生徒に好きな人がいるということを知るヒロイン。
諦めるのか?想い続けるのか?というところでエンディングロールが流れ出した。
次回予告を見る限りでは、恐らく想い続けるのだと思う。

「苗字さんだったらどうする?」

「え?」

「苗字さんがヒロインと同じ立場だったら、どうする?」

少し困惑したような、動揺したような表情になる苗字さん。
困らせてしまってごめんね。
でも、気になるんだ。少し、不安に思うんだ。
僕に好きな人がいると知っても、諦めずに想い続けてくれるのか。

僕は彼女に好きな人がいるともいないとも言ったことはない。
まず聞かれないし、それに僕から伝えると苗字さんの僕への想いが揺らぐ可能性があるからだ。
好きな人がいるといえば、苗字さんは自分以外の誰かを想像して諦めてしまうかもしれない。
好きな人がいないといえば、望みがないと思って諦めてしまうかもしれない。
そんな不安に思うならば僕が早く気持ちを伝えれば問題ない話だ。
けれど、まだ見ていたいんだ。
片思いしている苗字さんを。
僕の言動に一喜一憂して、想いを隠そうとする可愛い苗字さんの顔を。

「苗字さんなら諦めちゃう?」

ごめんね

「それとも想い続ける?」

もうちょっとだけ

「どうする?」

この優越感に浸らせて

「ゎ、私、だったら…」

「うん」

「好きな人に好きな人がいるかもしれないなら、ぁ、諦めない」

「そっか」

「でも、好きな人に好きな人がいるんだって言われたら諦めちゃう、かな…。振り向かせる自信ないし!」

えへへと苦笑いを浮かべる苗字さん。
笑顔がぎこちない、声のトーンが若干低い。
そんなことを彼女の口から言わせてしまった罪悪感が広がる。
その表情も僕を思ってくれているからこその表情だと思うととても愛おしいけれど、やっぱり苗字さんには笑顔でいてほしい。
だから僕は本心を伝えるよ。

「苗字さんはとても可愛いから、自信もっていいよ」

笑顔を浮かべたまま苗字さんのきれいな瞳をじっと見つめて、少し顔を近づける。
それだけで朱がさす頬に手をすべらすと口を真一文字に結びピシッと固まってしまった。

「(あぁ、本当に可愛いなぁ)」

困らせてごめんね、想いを告げないずるい僕でごめんね、という気持ちと
たくさん想ってくれてありがとう、僕も大好きという気持ちを込めて耳元で囁く。

「僕は好きだなぁ」










確かめたかっただけ





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