俺、いますごく楽しい。
「名前ちゃーん!」
「わ!」
今日は大好きな名前ちゃんとたくさんいろんなことをした!
名前ちゃんと映画を見に行って、(俺は途中で寝ちゃったんだけどね!)
女の子の間で人気のクレープ屋さんに行って、(名前ちゃんのデラックスチョコクレープと俺のトリプルムースクレープをとりかえっこした!)
遊園地行って、(ジェットコースターから観覧車まで全部制覇したよ!)
広い原っぱで昼寝して、(名前ちゃんの寝顔見ちゃったんだ…!)
で、今は海!
「急に飛びついたら危ないでしょー!」
「へへへ、ごめんね!」
「…私も仕返しだーっ!」
「わわわわ!!」
飛びついてきた名前ちゃんの勢いがすごすぎて、支えきれずに海に一緒に倒れこんじゃった。
これがいわゆる「三倍返し」ってやつなのかな!
実際に体験したのは初めてだー。
「っごめんジローくん!大丈夫?!」
「大丈夫大丈夫!」
「水飲んじゃったりしてない?!大丈夫?!」
「問題なしだよ!服はびしゃびしゃだけど!」
「ほんとにごめん!勢いつけすぎちゃった…」
「もう気にしなくていいよ?でも名前ちゃん風邪ひいちゃうから、あがろっか」
名前ちゃんの手をひいて、浜辺に漂着したっぽい流木に座った。
ちらっと横を見てみる。
夕日が名前ちゃんの濡れた髪に当たってきらきら光ってる。
きれいだなぁ。
「いつの間にかもう夕方だね」
「ね、あっという間だ〜」
しまりのない声でそう答えると名前ちゃんが俺の前に立った。
今までとは違って、少し真剣な顔をしてる。
嫌な感じがする。
その名前ちゃんの表情が嫌なんじゃなくて、名前ちゃんを取り巻く雰囲気が。
「………ジローくんは、もう、帰る時間だよ」
そう言われた俺の心臓が凍った。
「…ぇ、やだ…帰りたくない」
「でも、ジローくんは行かなきゃ」
「っやだ!絶対やだ!帰りたくない!俺ずっとここにいる!」
「もー、ジローくんってば」
俺のあまりに必死な顔と切羽詰まった声を聞いて、少し困った顔をする名前ちゃん。
でも笑ってくれてる名前ちゃん。
困らせてごめんね。
困らせたいわけじゃないんだよ。
俺がここまで嫌がる気持ち、分かるでしょ?
「帰りたく、ない…っ」
「ジローくん…」
だって夢から現実に帰ってしまうと、名前ちゃんはいないんだよ?
帰りたくない
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