あたしがそんなことを思いついてしまったのがそもそもの間違いだった。
部活が終わり、部員たちは疲れた疲れたと口々に言いながらさっさと着替えて帰っていった。
もちろんあたしだって例外ではなく。
マネージャーの日誌を書き、それを部長である跡部に渡し、樺地くんにお疲れ様と声をかけて部室を出てきた。
ドアを閉めるとき跡部に「俺にも声をかけるのが礼儀だろ」なんて言われたけどあたしが言われたとおりにするはずもなく。
「ご苦労、跡部。いってよし」とふざけて返してやった。監督がする手のポーズのジェスチャー付きで。
それを見た跡部に鼻で笑われたけど、なんとなく勝った気分で学校を出た。
そして歩くこと数分、ふと気付いた。
「宿題のプリント忘れてきた…」
まだ部員がちらほらと部室に残っているとき。
向日が身支度を整えているのを待っている忍足に、あたしは宿題を教えてもらっていた。
あたしよりずっと頭のいい忍足の教え方はすごく丁寧で、調子に乗ってあれもこれも聞いていると、同じ宿題の出ている宍戸に怒られた。
「お前だけ楽して宿題終わそうとすんじゃねーよ。俺にもそれ写させろ」
「やーだ。ま、お昼おごってくれるんなら考えてあげてもいいけどー?」
「っこのやろ!」
宍戸はあたしと忍足の間にあるプリントを奪って「借りるぜ」と言い放った。
簡単に奪われたことが悔しくて、あたしもその気で宍戸からプリントを奪い返そうとすると跡部が一喝。
「うるせーぞお前ら!おい苗字、宿題の前に日誌書き終わらせろ。俺様が帰れねーじゃねぇか」
「わ、分かったから怒鳴らないでよ」
「激ダサだな、苗字」
「宍戸、お前もだ。さっさと帰って宿題でもしろ」
「わぁーったよ」
「わりぃ、待たせたな侑士。じゃ、跡部、苗字またなー」
「宿題がんばりや、苗字」
「そこにプリント置いといたからなー」
ドアを閉めながら宍戸がそう言ってた気がする。
けどあたしはそのとき跡部に睨まれながら日誌を書いててそれどころじゃなかったんだ。
「もっと早く思い出したかった…」
いっそのこと明日の授業まで思い出さずにいれば楽だったのに。
と思ったがこの宿題を出した先生はものすごく厳しい。
提出しないときっと酷い目に遭う。
「………取りに行こ………」
もう誰もいないだろうと思っていたけど、部室の中はまだ電気がついていた。
跡部まだいるの?何してるんだと思いながらドアを開ける。
「…あ」
あたしが目にしたものはなんとも珍しい、あの跡部の寝顔だった。
どうやらさっきあたしが書いた日誌をチェックしてたらしい。樺地くんはもう帰ったのかな、いない。
跡部はイスに凭れかかって腕も脚も組みながら寝てる。
なかなかない光景で思わず声が出たけど気にしない。
このチャンスを生かさなきゃ女が廃る!どうしよう、何しよう。
顔に落書き?驚かして起こす?写メ撮って部員に一斉送信?………………あ……いいこと思いついちゃった。
今のあたしはにやりといやらしい笑みを浮かべてるに違いない。
「跡部のケータイで寝顔を撮って、それを待ち受けに設定してやろーっと」
普通に自分のケータイを開くと待ち受けが自分、しかも寝顔って驚くよね。
自分で設定した覚えもないし、寝る前まではいつも通りの待ち受けだったわけだし。
くくくく…跡部の反応が楽しみだー!
テーブルの上に置いてある跡部のケータイをそっと手に取り、開く。
「………え」
跡部のケータイの待ち受けは、あたしの寝顔だった。
いたずら
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