金曜日の放課後。僕はいつものように商店街の見回りをしていた。
今日はいつもよりたくさんの草食動物達を咬み殺したから少し気分が良かった。
けど、それは商店街の裏路地である光景を見るまでだった。





再度の約束





裏路地に入ってしばらくすると、複数と思われる女の甲高い怒鳴り声がどこからか聞こえてきた。
どうやら僕はそれに近づいて行ってるようで、だんだん声が大きくなっている。

「あんた、山本君に近寄りすぎなのよ!何様だと思ってんの!?」
「そうよ!あと獄寺君にも馴れ馴れしすぎだっつーの!」

そう誰かを罵る女達。

「(女であろうが群れるやつらは、咬み殺す)」

この一角の見回りを終わらせば、応接室で僕の帰りを待っている大切な女の子に会えるとゆうのに。
この群れる草食動物達のせいでそれが遠のいてしまった。気分が悪い。
イライラしながら角を曲がり、標的を見据えた。数は6。罵られているやつを入れると―――え?
そこには壁に寄りかかって座り込んでいる名前の姿があった。応接室で僕の帰りを待っているはずの君が、なぜここに居るの?
思わぬ光景のあまり名前を見たままでいると、名前と草食動物達が僕の存在に気付いた。

「あっ、ふ、風紀委員長の雲雀さん…!!」
「ひ、雲雀恭弥さん…!!」

顔を青くして恐怖の目で僕を見る草食動物達。

「え、雲雀さん…!?」

目を見開いて驚いた表情をみせる名前。その顔も可愛いね、なんて思いは一瞬で消えた。
名前の顔を見ると頬に切り傷、口端には殴られた痕。そして涙の跡。
それを見た僕は何かが切れたように草食動物達をトンファーでぐちゃぐちゃになるまで殴った。

「僕の大切な子に傷をつけたら、咬み殺す」

もう意識なんてないだろうけどそう草食動物達に言い放ち、座り込んだままの名前を横抱きにして草壁を呼んだ。

「草壁、後のことは頼んだよ。僕は学校へ戻る」
「はい」





商店街から学校への道を歩いていると名前が僕の名前を呼んだ。

「ひ、雲雀…さん…?」
「…」
「あの、私、1人で歩けます、よ?」
「…」
「どこも、全然痛くないですし…」
「…」
「大丈夫、なので、おろしてください…!(恥ずかしい…!)」
「…うるさい」
「は、はい!」
「(…はぁ)」










応接室について、ソファに名前をおろした。そして僕は救急箱を持って名前の横に座る。

「名前、こっち向いて」
「はい?え、あ、消毒くらい自分で出来ますよ!」
「僕がやる」
「え、そんな…」
「いいから」
「は、はい…ごめんなさい。ありがとうございます…」
「消毒液、傷口にしみると思うけど…我慢してね」
「はい!」

消毒をして頬には大きな絆創膏を、口端には小さい絆創膏を貼った。見るからに痛々しい姿だと思う。

「名前、なぜあの場所に居たの?応接室で待っていてって言ったのに」
「それは」
「なぜ殴られていたの?」
「えっと」
「うん、何?言ってみて」

(僕なりに)優しく声をかけながら彼女の頭を撫でる。
すると名前は俯きながら話し始めた。

「…朝、私の下駄箱の中に「放課後自分の教室で待ってろ」と書いてある呼び出しの手紙があったんです」
「だから私は雲雀さんを応接室で見送ってから教室へ戻って、さっきの人達に会いました」
「そしてそのまま商店街のさっきの場所へ連れて行かれました」
「それで、色々言われて…ガツーンと殴られた、ってわけ、なんですけ、ど」

恐る恐る僕を見上げる名前。何、僕は怒っているんだからそんな可愛い顔したって許さ、ない……よ。

「(僕、重症だ…)じゃぁなぜ僕に助けを求めなかったの?」
「だって…」
「その呼び出しは良いものじゃない、とは思わなかったの?」
「思いました…」
「じゃぁ、なぜ?」

なぜ、僕を頼ってくれなかったの?僕に言ってくれれば君を守ることができたのに。
…いや、これは言い訳だ。名前が応接室から僕を見送るときの笑顔がいつもと違って硬かった。
そのときに気付くべきだった。「何かあったの?」と、名前に優しく問いかけるべきだった。
僕は、君に疑問を投げかける立場じゃない。

「雲雀さんに迷惑をかけたくなかったんです」

…え?

「雲雀さん、風紀委員の仕事で忙しいのに、「呼び出しされたので助けてください」なんて、手を煩わせてしまうようなこと、言いたくなかったんです」

仕事の邪魔、したくなかったんです。
僕の目を見ながらぽつりぽつりとそうゆう名前。え、ちょっと、待って。君は…

「名前は本気でそんなことを言っているの?」
「はい」
「僕は名前のことより風紀の仕事を優先すると思っているの?」
「だって、雲雀さんは仕事に真面目ですもん!」
「…バカじゃないの…」
「え?!なんでですか!私すっごい真面目に考えてるんですよ?!」

本当に君は…可愛いね、愛しいよ。そう思いながら僕は名前の腕を引っ張って、抱き締める。

「え、ちょ、ひばっ雲雀さん?!」
「(噛みすぎ…)名前、僕はね」
「はい?」
「風紀の仕事より何より、名前のことの方が大切なんだよ」

彼女の顔を見て僕は続ける。

「名前が一言、「助けて」と言ってくれれば僕は必ず君を助けるよ」
「何よりも何よりも、名前が、大切だから」

そう噛みしめるように言った。名前は顔を真っ赤にして目をそらす。恥ずかしいんだね。
僕は名前の額にキスをして、再び自分と約束を交わす。

「僕は二度と名前に傷がつくようなヘマはしない。守りぬくよ」

ずっと。





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