空が夕日色に染まるころ。
私は誰もいない教室で自分の机に突っ伏して泣いていた。
理由は簡単、失恋したからだ。

初めて会ったときから気になっていて、いつのまにか好きになっていた。
でも伝える勇気もなく、想いを伝えたところで上手くいくとも思わなかったのでその気持ちは隠したままにしていた。ずっと、誰にも言わずに。
その人とは「友人」といえるか分からない微妙な関係だった。
私は一応「友人」だと思っていたけど、その人からしたらただの「知り合い」程度だったかもしれない。
だから込み入った話ができず、その人に付き合っている人がいることをさっき知った。
自分の目で。

委員会の仕事が終わり下駄箱へ行くと、そこでキスをしている人たちがいた。もう部活動の時間だったし、誰も居ないし来ないと思ったんだろう。
気まずいと思い踵を返そうとしたとき、その人たちの顔が視界に入った。
その一方が、私の好きな人だった。

驚いて、そのまま走って教室に戻った。
…足音大きかったから人がいたことバレちゃったかな。



「告白する前に、玉砕…」



ははは、と自分で笑ってしまう。
し、泣けてくる。
付き合っている人がいるのだから、もし告白していたとしてもフラれるのだから結果は今と同じなのだ。
自分の目で見てしまったのは正直キツかったが、受け止めなければ…。
そう思っても、涙は止まらない。



「諦めなきゃぁー…忘れろ自分ー…」



自分にそう言い聞かせていると不意に横から声がした。



「…苗字さん?」



はっとして声のした方へ顔を向けると、私の斜め後ろにジャージ姿の不二くんが立っていた。いつの間にいたんだろう。
2年生のときから同じクラスだったけど、こんなに近くで見たのは初めてで、変に感心してしまった。



「苗字さん…泣いてるの?」

「ぁ、」



不二くんが驚いた顔をしてそう言った。
そうだ、感心してる場合じゃない。
私の泣き顔なんかをあまり関わったことのない不二くんに晒すなんて、なんだか申し訳ない。



「ごめん、不二くん。なんでもないから」

「………」

「泣いてる人に話しかけるなんて、不二くん良い人だね。でも気にしないで、大丈夫だから」



涙を拭いながら笑顔を向けてそう言った。
本当はわんわんと大声をあげて泣きたいところだけど、不二くんに迷惑なんかかけられない。
とりあえず不二くんが教室を出て行ってからだ。
でも不二くんは教室を出るどころか、その場から動こうとしない。



「…失恋、したの?」

「…………………え?」



あまりのことに驚いて間抜けな声を出してしまった。
なんで分かったの。なんで分かるの。私は泣いてるだけなのに。
私の心の中が分かっているように不二くんは言葉をつづけた。



「分かるよ。だって苗字さんのことだから」



不二くんが床に膝をつき、私を抱きしめた。
いきなりのことで頭が追い付かない。



「僕なら、泣かせないよ。悲しませないよ。苗字さんをずっと笑わせてあげられるよ」

「ふじ、くん」

「僕が守ってあげるから。僕が大切にしてあげるから。僕のことを好きになってよ」

「ふ、」

「ずっと前から苗字さんのことが好きだった」



抱きしめる腕の力をゆるめ、不二くんは私と向き合った。
あの不二くんが目の前に、息がかかってしまうくらい近くにいるのだから無意識に顔が熱くなり、目が泳いでしまう。
そんな私を見てふんわりと笑った不二くんの顔が頭から離れない。





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