剣の舞 | ナノ












なんだこの曲は。




音楽室から聞こえた奇妙な曲に、花井は思わず足を止める。

トランペットとピアノってなんだ。
それも、たぶん即興曲。
それぞれ好きに弾いているようなのに、妙に合ってる。しかも、この突き抜けるようなトランペットの音はあいつの。



「…なーにやってんだ。」


「はない く」


「あ、花井ー!」



おっせーよ!と田島はぷぁーっと一度大きく楽器を吹いた。



「うるせーよ!」


「花井が遅いからわりーんだよ!」



田島はにししと笑いながら三橋にじゃれつく。

同じクラスのこいつらは、入学当初から妙に仲が良い。
勿論、俺が三橋と組んでから上手くコミュニケーションのとれない俺たちの助けにはなってくれたんだけど。だけれども。



「分かったから、どけよ。今から練習すんだっつーの。」



べりっと田島を引き剥がす。
それまでは気にしたこともなかったけど、こいつは異常なくらい頻繁に、三橋に抱きつくのだ。
恋人として、良い気はしない。



三橋は後ろから抱きつかれながらも、ぽろんぽろんと楽しげに鍵盤をたたいている。
心も浮き立つような旋律。

背中のこいつがちょっと邪魔だけど。




一人でも迫力ある演奏が出来る、天才児。


高校生ながら、田島のトランペットは演奏家のあいだでは既に有名だ。

人と組む必要のない田島と、人と組めなかった三橋。仲が良いのは当然なのかもしれない。



「花井くん、練習、しよっか」


「お、ああ。」



にこっと、珍しい満面の笑みで言われる。
悔しいけど、田島としゃべると三橋の気がほぐれるのは確かなんだ。悔しいけど!


両想いでキスまでしてるくせに俺は何を気にしてんだ、とこっそり息をついた。



「三橋ー、ちょっとだけ花井借りていい?」


「? いいよー」


「おわっ」



トランペットを小脇に抱えた田島に、がしっと腕を捕まれてずるずると引きずられる。
基礎体力のいる金管楽器を演奏するこいつは、小さいくせに意外と力が強い。


音楽室の外にぽいっと俺を放り出すと、田島は後ろ手に扉を閉めた。



「いきなり何すんだよ…」



振り向いて、思わずぎょっとした。
さっきまでの笑顔が嘘のように、険のある表情。
こいつのこんな顔を見るのは初めてだ。



「三橋と花井はさ、付き合ってんだろ?」


「…っ」



思わず言葉につまる。


この関係は秘密にしようと決めたことだから、三橋が話したのだとも思えない。
どうして田島が知ってるんだ。


疑問が顔に出ていたのだろう、田島は大きく溜め息をついた。



「花井はずるいよな。」



音楽室の中で引く三橋のピアノが、かすかに廊下に反響している。



「俺が最初に、好きになったのに。あいつは俺のだったのに。」



投げ付けるように発される田島の言葉が、ピアノの音に交じってびしびしと俺にぶつかって跳ねる。



「花井はずるいよ、」


「俺はトランペットだから、三橋と組めないのに。」



こっちを睨む田島の目を、俺も負けじと睨み返す。




聞こえる曲は、「剣の舞」




沈黙に耐えきれず口を開こうとしたその時、突然田島は笑みを浮かべた。



「ま、全然諦めてないんだけどね!」



にやりと笑って、田島は練習頑張れよー!なんて叫びながら階段を駆け降りていった。


恐い。あの笑顔が恐すぎる。




でも三橋と演奏すんのは、俺だ。




流れる曲に応援されるように一人気合いを入れて、俺は音楽室の扉を開けた。


とりあえず三橋を思いきり抱きしめてやろう、と思いながら。







(みすみす渡したりなんかしねーよ!)


























田島最強伝説。
なんとなく彼はトランペットのイメージで。


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