きみに捧げるラブソング | ナノ
さてどうしたものか、と、三橋は考えをめぐらせる。
泉はひどく機嫌が良くて、さっきから滅多に聞けない彼の鼻歌が聞こえている。
ジングルベールジングルベールすずがーなるー。クリスマスソングの定番。サンタはイブにやってくる。泉みたいに、贈り物をそっと忍ばせて。
今日の練習はお昼で終わり。きっとモモカンからの、クリスマスプレゼントだ。
背中から三橋の左肩に顎をのせて、泉はやっぱり上機嫌。
こんなときでも彼は、三橋の右肩に負担をかけないよう配慮するのを、忘れたりなんかしない。鈍い三橋でも、それくらいは気付いている。
頬のすぐそばで泉が鼻歌を歌うので、すこしくすぐったい。顔が見たいのだが、上手く言いだすことが出来ない。腰に回された泉の左腕で抱き寄せられているので、身動きもとれない。
さてどうしたものか、と、三橋は考えをめぐらせる。
「ぴったりじゃん、さすが俺」
泉の右手が三橋の左手を撫でる。最近やたらと手を繋ぎたがるのはこのためだったのか、と納得した。この寒い時期に指を絡めて、素手で。
繋がれた手は、外気の冷たさを感じる暇もなく泉のコートのポケットにそのまま収納されるので、全く困らなかったのだけれど。むしろ、とても温かくて幸せだった。
「いずみ、くん」
「うーん、もうちょっとだけ」
頬にすり寄せられる彼の髪が、やっぱりむずむずとくすぐったい。
室内の温度は低めに設定。背中から伝わる体温が、すこし熱すぎるくらいだから。
「クリスマスっていいなあ」
泉の言葉に、三橋もひとつ頷いた。サンタクロースよりも来てくれて嬉しいひとが出来るなんて、幼い頃は考えたことすらなかったのだけれど。
さてどうしたものか、と、三橋はまた考えをめぐらせる。
自分だって、泉にプレゼントを渡したい。そろそろ顔も見たい。でも、背中から抱きしめられた腕を無理矢理ほどくのは嫌だ。
泉はまた、甘えたように三橋の頬に唇を寄せる。
みはし、と呼ぶ、彼のちいさな声が甘すぎて、このままとけてしまいそうだと思った。
男前で辛口な彼が、実はふたりきりだとひどく甘えたがるのだなんて、きっと誰に言っても信じてはもらえないのだろう。
「いずみくん、」
「なに?」
耳元で囁くのは反則だと思う。とろとろに、何もかもがとけてしまう。
ほら、嬉しそうに泉が撫でる自分の左手、薬指の冷たい感触は、もう自分の体温にとけてぬるくなってしまった。
銀色のそれは、勿論泉の左手、薬指にもはめてある。
お揃いは嬉しい。
練習中は当然着けられないから、ふたりのときだけの秘密だ。
ほんとにサイズぴったりだ、さすが俺。と、泉が満足そうに笑うので、気恥ずかしい気持ちもとけて消えてしまう。
やっぱり顔が見たいので、左手の指を撫でる泉の手を自分の両手で包み、そのまま口元へはこぶ。
ちゅ、と音をたててその長い指に吸い付けば、作戦は成功。
「……お前、そんな技どこで覚えてくるんだよ……」
鼻歌はぴたりと止んでしまったけれど、泉の腕のなかでくるりと位置を変えられて、正面から抱きしめられた三橋は幸せそうに笑った。
泉の耳が瞬時に赤く染まった理由は、実はよくわからなかったのだけれど。
きみに捧げるラブソング
(ふたつのわっかは、えいえんのやくそく)
冬期アンケ2位のイズミハ。コメント下さったヤサコさま、匿名さま、ありがとうございました!と感謝を込めつつ!
しぬほどあまく!をテーマに、イズミハクリスマスイブ。一生分の砂糖を使いきった。三橋は 天然 だよ!
頑張ってこっそり三橋の指のサイズを測る 泉・男前・孝介 に祝福を!
081224