ちいさな王様 | ナノ


※『意気地なしの独占欲』の続編。










ちいさなこの国にはやはりちいさな、


けれども、絶対的な権力をもった王様が、存在する。






ちいさな王様






重く硬い、金属のドアノブをぐっと握った。

瞬間、冷たさが手のひらから背中へと走って、泉は軽く身震いをする。脇に抱えた購買の白い紙包みが、かさりと鳴った。



ひゅう、と、

紙でも切れそうに鋭く、息も色付く風が、前髪を揺らす。




「うー、さみーなあ」




屋上を選んだのは失敗だったかもしれない、と空を見上げつつ数歩進む。背中越しに、ドアの閉まる重たい音がした。




襟元から吹き込む風に身を竦め、逃げるように躍り出た日向は、それでもそれなりに暖かくて、ほっと息をつく。




澄んだ空にも、心は晴れなかった。
生きてきた年月は勿論至極短いのだけれど、こんな悩みを抱えるとは、思いもしなかった。


不本意ながらも少し、笑ってしまう。




(こいびとに愛情を疑われます、なんて)




高校生にしてはなんだか、艶っぽすぎる悩みじゃないか。




金網に凭れて、目を閉じる。
日差しは暖かく、気持ちがいい。

購買の紙袋には、自分のハムサンドと三橋のチョコチップメロンパン。ピザパンとアンパンは多分、はんぶんこ。




実はチョコチップメロンパンは大人気で、買うのが大変だってこと、

甘いものが大好きなきみは、絶対に知らない。

知らなくて、いい。




(三橋の為ならパシリまがいのことだってなんだって、俺はしちゃうんだけど)




紙袋の底の、烏龍茶の紙パックにぷすりとストローを突き刺して、笑いかけた頬を誤魔化した。

唇に喉に、冷たい烏龍茶がぴりぴりとしみる。




さて、職員室に連行されていった三橋が、そろそろ来るころだろうか。

数学の小テストのことで凹んでいるだろう彼を、よしよしと撫でて甘やかしてやりたい。



そう、彼の中は、もっと、

俺だけになればいい。




(ちいさな王国の、俺だけの王様)




支配されているのは俺のほうだと、きみは絶対に知らない。

知らなくて、いい。




下剋上なんて望まない。

王様からの甘やかな嫉妬や束縛を味わいながら、少しずつ、疑う彼に愛情を伝える。




重すぎる自分の愛情で、彼を潰してしまわぬように、慎重に。

俺は、忠実に臣下の務めを果たす。




ぱたぱたと軽い足音。

きい、と、ドアの軋む音がして、息をきらした三橋が顔を覗かせた。




さて、忠誠のキスは手の甲に落とすべきか唇に落とすべきかと考えながら、

俺は優しく笑って彼を呼ぶ。












私の書く泉はなんだか重いひとじゃないか……?大丈夫なのか。
ふたりのベクトルが 攻め→→→←←受け だと萌えるなあ、と思いました。お互いに重い。


081216








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