火を点けたばかりだった浜田の煙草は、珍しく怒ったような表情の三橋に取り上げられた。
それは危なっかしい三橋の手からすぐさま泉に奪われて、くしゃりと灰皿に押しつけられる。甘い、コニャックのような香りの煙が一筋。
まだ長かった煙草は無惨にもぽきりと途中で折れた。


「浜田はなんで葉巻吸わねーの?」


ソファーの背にもたれて立っていた田島が、無理矢理ワインのコルクを歯で開けようとしながらもごもごと言葉を発する。
部屋の中央、毛足の長い敷物の上には、向き合うように鎮座しているシックなブラックのソファーが二脚。華美ではないが、内装には気を遣っていた。

浜田と泉に向き合う位置、三橋の隣に田島がすとんと腰を下ろす。豪快にぐいぐいとワインをらっぱ飲みしながら。


「葉巻より煙草のほうがケムくないから」
「どっちも臭いのは同じだけどな」


服に臭いがつくから嫌だ、と泉は眉をひそめて苦々しげに吐き捨てた。うちのファミリーの頭脳役は幾分か潔癖すぎるきらいがある。

煙草を奪っていった三橋は「身体に悪いよ」と案じ顔で諭すように呟く。縋るような目で見られて、二本目に伸ばそうとしていた手は引っ込んでしまった。



「確認するぞ」


手元の書類を広げ、泉が涼しい顔で口を開く。
一応ファミリーのボスは自分なのに、ないがしろにされすぎじゃないか。愚痴のひとつもこぼしたい気分だったけれど、仕方なく飲み込んで浜田はソファーに背を預ける。実質、うちを仕切っているのは泉なのだから頭が上がらない。

とん、と泉は指先で書類を指し示し、田島と三橋に目を向けた。


「俺の歓談中、田島は扉の外な。三橋は向かいの廃ビル屋上」
「何度も言わなくてもそんくらい覚えられるって!な、三橋!カンダンならどーせ俺の出番はないんだろ?つまんねー」
「歓談なら、な。そーじゃなくなるかもしんないからお前や三橋が要るんだよ。今回の相手、連絡してきた時から喧嘩腰だったからなー」


ぎゅっと眉間に皺を寄せ、さも嫌そうに泉が呟く。


「俺、がんばる、よ」
「三橋は頑張んなくてもいいよーに俺が頑張るから、安心しろ!泉のカンダンはほんとアテになんねーからな」


清々しいほどキッパリ言い切って、田島は胸元をするりと撫でた。
主にナイフを使う田島の胸元には、薄刃のそれが無数に仕込まれている。背後に回り込んで急所を一突き。田島の動きには欠片の無駄も無い。


「俺の出番があんなら、カンダンじゃなくなってもいーけどね!」
「バカ、田島の出番があるっつーことは三橋も働かなきゃなんなくなるだろ。俺は穏便に済ませてみせる」
「つまんねー!」
「…泉はほんっと三橋にだけは甘いよね…痛い!」


思わずぽつりと呟いた浜田の言葉は、強制的に悲鳴へと変えられた。隣に座る泉の革靴ががっちりこちらの足を踏んでいる。痛い。


「泉くん、がんばってね」
「おう。三橋は心配しなくていいからな。田島と俺で済ませるから」


立ち上がった泉が三橋の髪をくしゃりと撫でた。
そーそー!と頷きながら田島も三橋の肩を抱く。前言撤回、三橋に甘いのは田島もだ。

溜め息を吐きながら煙草に伸ばそうとした浜田の手は、またしても心配顔の三橋に止められた。


「身体に悪いから、あんまり吸わないで、ね」


そう言い残し、行ってきます、とにっこり笑って三橋はソファーから立ち上がる。足元に置いてあったライフルのケースを抱えて。

三橋の弾はどんな距離からでも決して標的を逃さない。


『身体に悪いもの』を使ってるのはどっちだよ、と苦笑いしながら浜田は煙草を箱に戻した。そのまま、祈るように天井を仰ぐ。どうか今日もあの三人が、三橋が、穏便にことを済ませて無事に帰って来ますように。





















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メモから再録。


某さま宅のマフィアパロ絵にときめいたが故の犯行です。マフィアについての知識がないのでたぶん色々おかしいです。


10.02

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