※注意
いろいろと捏造してます















はないー、と斜め上から間延びした声が降ってきた。
見上げれば、大きく笑う田島の顔が視界に飛び込む。
葉の枯れ落ちた枝の向こう側、開かれた二階の窓から上半身を乗り出して田島はひらひらと暢気に教科書を振っている。
体育の名残の汗をジャージで拭い、軽く手を挙げて花井はそれに応えた。


「なんだったの、体育」
「サッカー」
「サッカー?今度学年だけでクラスマッチあんだろ?花井ソフト出ねーの?」
「阿部と水谷がソフトにしたんだよ。クラスの野球部が全員ソフトじゃマズいだろ」
「なんで?」
「他のクラスとのバランスとかさ」
「俺んとこは泉も三橋もソフトにしたよ」


もちろん俺も!と言わんばかりにあっけらかんと田島が笑う。どうやら今年のクラスマッチは九組の優勝で決まりらしい。

対戦相手が可哀想になるくらいぱかぱか打ちまくる田島と、それに悪乗りして疾走する泉と、バットがボールを掠めるたびにマウンドで身を縮める三橋がいとも容易く想像できた。
ついでに、おどおどとサインを求めるような視線を向けられて、九組のベンチに殴り込みに向かうキレた阿部の姿も。

どうかうちのクラスと九組が対戦しませんように。
望み薄な願いを胸に、足元に転がっていたサッカーボールを拾い上げる。
ソフトにしなくて本当に良かった。

じわりと首筋に滲む汗を再びジャージの袖で拭った。
今日は随分と暖かいけれど、それでも冬の冷たい外気はすぐに運動後の心地よい火照りを奪っていく。
田島がまたひらりと教科書を振りながら口を開いた。


「ポジションは?」
「ディフェンダーかフォワードかそのへん」
「適当すぎんだろ、それ」
「そんなもんだって、俺サッカー部じゃねぇし」
「そーだけどさ」

「まぁ花井ガタイいいし、どのポジションでも上手くやれそうだよな。ほら田島、そろそろ教室戻るぞ」


ひょいと田島の後ろから首を出した泉がたしなめるように会話の最後を引き取ってそう言い、眠そうな顔でひとつ伸びをした。
移動教室だったのか、教科書とペンケースを抱えてそのまますたすたと教室へ戻っていく。マイペースだ。
浜田の金髪も田島の背後に見える、が、少しの違和感に花井は眉を寄せた。一人足りない。


「三橋は?」
「そこ」
「え」


田島が指差す先を目で追ってくるりと振り向く。
2メートルほどの距離、すぐそこにひょいひょいと跳ねた髪が見えて。
思わず抱えていたボールを取り落としかけたから、慌てて片腕で抱え直した。
上履きのまま三橋がこちらに駆け寄ってくる。珍しい。


「花井くん、教科書、」
「あ、ああ。そっか」


貸してたんだっけ、と思い出しつつ差し出された教科書を受け取った。ちょっとだけがっかりしている自分が可笑しい。
眠たげに細められたまぶたの奥で、色の薄い瞳がサッカーボールを捉えて不思議そうに瞬いた。


「花井くん、サッカー?」
「阿部と水谷がソフトだから、俺は遠慮しといたんだよ。三橋はソフトなんだろ?」


相変わらず分かりにくいけれど、最近はぶつ切りの会話にも慣れてきた。
田島ほどじゃないがなんとなく読み取れる。たぶん田島と同じことが言いたいんだろうな、と推測して答えた。

こくりと頷いた三橋のやわらかそうな髪が揺れる。側頭部に軽く寝癖がついている。


「さっきの授業、寝てたんだろ」
「えっ、なん、で」
「寝癖。と、涎のあとがついてる」


忙しなく口元をこする三橋の頭に手を伸ばし、指先で寝癖を梳いてやった。ゆるむ唇を押し隠しながら。
涎は嘘だけど寝癖は本当だ。

触れた髪はやはりやわらかく指に絡んで、淡い感触を残して解けていく。


「応援しに行く、よ」
「え?」


唐突な言動に手を止めた。
花井の手のひらの下で寝癖を直されていた三橋は、そう小さく呟いてからするりと踵を返して校舎へと小走りに戻っていく。

一拍間をおいてから、ああサッカーのことか、と回転の鈍くなった頭が判断を下した。
応援なんて、いたって普通のことだ。別に動揺するほどのことじゃないのに。
今度こそ取り落としてしまったサッカーボールがごろりと足元で転がる。


汗はもう既に引いていた。
理由もなく熱く火照る耳の先を誤魔化しながら、片手で落としたボールを拾う。
やっぱりソフトにしなくてよかった。きちんとポジション決めてしっかり練習しようかな、なんて、無意識にぼんやりと考えながら。































─────────

花→←三。


捏造しまくりですみません。
こんな仲良しハナミハがいつか本誌で見られるって信じてます、ひそかに。


091213

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